ITS 2020 アートワーク部門 ファイナリスト 大澤夏珠
ー大澤さんがアートワーク部門のファイナリストに選出された「ITS 2020」のことから聞いていきたいと思います。
実は、最初に応募したのは2019年でした。ITSのインスタには色々な写真や動画が載るんですが、一次審査の様子の中に自分のポートフォリオが映っていたんです。でも結局選ばれず、それがすごく悔しくて「来年も絶対やろう!」って思いました。2020年もファッション部門で応募していたのですが、まさかのアートワーク部門に選ばれるという、予想しなかったことが起きて。ファッションやお洋服だったら自分がどうやって考えて、デザインして、どういうものを作りたいというのがあるんですけど、いきなりアートを作ってくださいと言われて、最初はかなり戸惑いました。
ーアートワーク部門は、ファッション、アクセサリー、ジュエリー各部門の応募者の中から選ばれるんですよね。実際、何を作るのでしょうか?
私の年は「旅」というのがキーワードになっていました。コロナですごく閉塞的な時期だったというのもあると思います。それをもとにしながら、自分がファッション部門に応募したテキスタイルだったり、コンセプトを入れつつ、作品を制作していったという感じです。
ちょうどコロナ禍の緊急事態宣言の時期に、うちに迷い込んできた1匹のちょうちょがいました。そのちょうちょと一緒に数日間ステイホームしたこと、自由に飛んでいける姿への羨望から、ちょうちょをモチーフに選びました。スーツケースからちょうちょが飛び立っていくというストーリーで作品を作ったので、ヴィンテージのスーツケースにパッチワークを施して、ちょうちょとセットで送りました。
ーちょうちょの実物は2メートルくらいあって、結構大きいんですよね。
画面や写真になってしまうと、その大きさがなかなか伝わらない。リアル開催ではない時の見せ方って工夫しないと難しくて、逆にオンラインならではの上手い見せ方もあったんじゃないかとは、後になって思うんですけど。
ーそのためか、ITSのウェブサイトにはアートワーク部門のファイナリストの作品を紹介するムービーもありました。
このムービーもアクシデントがあったんですよ。ちょうちょの胴体のパーツがない状態で撮影されているんです。直接自分が現場に行けず、向こうに作ってもらう状況で、それに日本人とイタリア人で価値観や感覚も違うじゃないですか。そこのコミュニケーションも、もっとちゃんとしなきゃいけないって、これもすごく勉強になりましたね。
ー最終審査ではプレゼンテーションもありましたか?
プレゼンもありました。10分か15分くらい。アートワーク部門はSwatch Art Peace Hotelがスポンサーなので、CEOのかたが審査員です。ファイナリスト4人くらいが一緒にZoomのルームに入って、ひとりずつ発表していきました。
授賞式は、テレビ番組みたいな感じのオンラインライブ中継でした。日本時間は23時くらいだったと思います。Zoomで繋いだら自分が映っていて、面白い経験でしたね。
ーファッション部門に応募した、もともとのコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?
地球にもやさしいし、ファッションも楽しみたいということが両立するようなアプローチで応募していました。ちょうどフリーランスとして色々なブランドや会社を掛け持ちしていて、お洋服の大量生産、大量廃棄を見て、自分がファッションで新しいものを作るのにも罪悪感を感じていた時期だったんです。それをもっとどうにかできないかなと思っていて、徳島県上勝町という、国の「SDGs未来都市」にも選定されている町へ1週間のリサーチトリップへ出かけました。
「ゼロ・ウェイスト」を掲げて、町民の方々がゴミを40種類以上に分別していたり、リメイクやアップサイクルの工房もあるんです。すごく印象的だったのは、「ゴミの山から、宝の山を作ります」という現地のおばあちゃんの言葉。素敵な考え方だなって、すごく感動して、そういう活動を自分もしたいなと。今ブランドとしてやっているお着物のリメイクにも繋がっていますし、このリサーチトリップがコンテストに応募した時の一番大きなインスピレーションです。最終審査の時には、ゼロ・ウェイストやリサイクルをただ頭で考えるだけではなく、実際の行動や経験がクリエイションに生かされていることを高く評価していただきました。
あとは、いろんな人を巻き込んだのがよかったと思います。旅に行くのもそうですし、開発されたばかりの新しい素材が使いたいと思ったら、会いに行って交渉する。そういう行動力は大事だなと思いました。応援してもらえるのって学生や若手の強みだなと思うので。
ー今年2022年9月にイタリアのトリエステでリアル開催された「ITS 2022」に出席されてみて、いかがでしたか?
何よりも、現地に行けることが嬉しくて。着いたらまずファウンダーのバーバラとハグをしました(笑)。オンライン開催だった2020年と2021年のファイナリストも招待されて、今年のファイナリストもいて、一気に世界中の若手デザイナーたちとの横の繋がりができたのが、リアルに行けて良かったことのひとつです。泊まるホテルも、知らないファイナリスト同士が相部屋なんですよ。私は去年のファッション部門のファイナリストの中国人の女の子と同室で、その子ともインスタのDMでやりとりするくらい仲良くなりました。
今年はITSの20周年で、ITSアカデミーという過去のファイナリストの作品やポートフォリオが展示されている美術館のような場所がオープンして、それを見ることができたのもすごく良かった。
ー滞在中はどんなことをしましたか?
集合写真を撮ったり、みんなでご飯を食べたり、アートのワークショップに参加したり。来場しているプレスや関係者とのインタビューの時間もありました。過去のファイナリストは、発表ショーや授賞式に出席するのがメインで、トリエステには2日間滞在しました。
ー文化服装学院時代はどんな学生でしたか?
本当に学校が大好きでした。先生もクラスのお友達も大好きで、4年間、無遅刻無欠席。高校までは別にそんなことなかったんです。自分が好きなファッションができて、すごく楽しかった思い出が多いです。その時できた友達や先生とのつながりが宝だなって今でも思います。
ー学生のうちにやっておいた方がいいことはありますか?
私は文化を卒業した後、アントワープ(王立芸術アカデミー)の学生のアシスタントをしていたので、アントワープの学校の校舎にも入ったことがあるんですが、文化って、購買とか、生地屋さんとか、学内で生地にプリントができるとか、図書館もものすごいし、リソースセンターもあるし、施設が世界で一番恵まれてると思ったんですよ。でも学生の時って、それが当たり前だと思ってるから、みんなあまり活用していない。ファッションを学ぶのに恵まれている環境なんだということをまず知って、もっと活用した方がいいって思います。
ーアントワープへ行った経緯を教えてください。
文化を卒業した後に、就職をしないで海外に行きたいって漠然と思っていたんですよ。本場のファッションを感じてみたくて。ただ、留学するとなると、もう高専に4年間行っているので、金銭的にも難しい。リーズナブルに海外に行ける方法がないか探していた時に、たまたまFacebookで、3つか4つ上の文化の先輩がアントワープに留学していて、3年生の修了制作のアシスタントを募集しているのを見つけたんです。知らない人だったんですが、これしかないと思って。それが12月末くらいで、卒業して、4月から行きました。飛行機代は自分ですが、それ以外の生活費やご飯代は向こうが持ってくれるみたいな感じです。こういう方法はアントワープやセントマでは一般的らしくて。向こうの学生は自分で服を作れなくてもいいので、チームでコレクションを作っていて、そこは文化と違うところだなと思いました。アントワープでは1年生から4年生まで一緒にショーをやるんですけど、私が行った年はシモーネ・ロシャが審査員でした。直接話せるわけではないですが、とても好きなので嬉しかった。
ー3ヶ月のアシスタント期間が終わり、日本に帰国したんですね。
6月にショーが終わって、ちょうどパリのメンズコレクションの時期だったので、アントワープから近いし、どうせならと思ってパリにも行きました。その時、文化の時のクラスメイトもパリに留学していて、一緒にサカイ(sacai)やファセッタズム(FASETASM)のファッションショーのお手伝いをしたりしました。せっかく行くんだから色々やらなきゃと思って。文化卒のパタンナーの方が海外でたくさん活躍しているので、文化卒ですって言うと、技術がある人だと見てもらえる。「BUNKA」はブランドなんだなって実感しました。それが2016年頃で、日本に帰国した後、就職したりもして、ここのがっこうにも行き、ITSに応募したという感じです。
ーご自身のブランド「ナツミオオサワ(natsumi osawa)」を立ち上げたのは、いつ頃?
ブランドを立ち上げようっていうよりは、流れで、グラデーションで始まりました。ITSのファイナリストになった後、2020年10月に合同展示会roomsで、小泉智貴さんのデザイナー発掘・育成プロジェクト「SPOT LIGHTS by TOMO KOIZUMI」に選んでいただいたことで、展示のためにブランド名が必要になったことがきっかけです。
文化の時は衣装デザイナーになりたいと思っていて、でもアントワープに行ったら「ファッションってかっこいい!」ってなって、両方やりたくなっちゃったんです。ちょっとアート寄りな、衣装のお仕事もやったし、シーズンにとらわれずに新作を発表する形で今までやってきました。
ー今年2022年夏に「JFW NEXT BRAND AWARD 2023」審査員特別賞を受賞し、東コレ期間中の渋谷ヒカリエで展示会を行っていましたね。
この時が初めてちゃんとした展示会を行った機会ではありました。これまでのファッション業界の流れ、SS・AWというシーズンがあって、展示会があって、お店にオーダーをもらって、半年後に納品というのは、必ずしも自分のスタイルに合っているとは言えないんじゃないか、もっと色々試してみたい、もっと自由でいいんじゃないかなと思っていたので。自分はどうしていきたいかや、どういう規模感で、どういうブランドにしていきたいかというのを考えながら、模索し、試行錯誤しているところです。
同世代の子たちは、自由なスタイルで始めている子が増えているような気がします。既製品で大量生産されたものが過ぎ去ったあとに、手仕事だったり、作り手の意志を感じるもの、あたたかみがあったり、ストーリーを含めたところに価値を感じる人が増えているのではないでしょうか。たくさんの人に受け入れられなかったとしても、発信し続ければ自分のものを好きって言ってくれる人はいるって、ここ2年くらいで思ったので。その代わり、自分が発信するものに対しては、たくさんリサーチして手を動かして、自信を持って発信することが大切ですね。