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Feel the Contest 2023 セミファイナリスト 木下響子

文化服装学院ニットデザイン科を卒業してから10年ほど。大手アパレル会社やOEM会社でニットデザイナーとしてのキャリアを積み、在学中に参加した「Feel the Yarn」のコンテストに再び挑戦した木下(手島)響子さん。「Feel the Contest 2023」セミファイナリストに選出され、仕事とコンテストを両立した彼女にお話を聞きました。

ー卒業して10年ほどということですが、「Feel the Contest」に応募したきっかけを教えてください。

ニットデザイン科(以下、ニット科)の先生から連絡が来て、コンテストのことを知りました。ちょっと新しいこともやりたいなと思っていた時期だったんです。性格的に好奇心旺盛で、こういうのあるよと言われたら、チャンスかなって思っちゃうタイプ。学生時代にも参加したコンテストで、これはやるしかない、と思ってチャレンジしました。

ー卒業してからも先生方と連絡を取り合っているんですね。

はい。卒業した後も進路相談などで連絡させてもらったりしていました。卒業してからも、そういう意味でニット科は繋がりが濃いですね。

ー「Feel the People」が今回のコンテストのテーマで、それを自由に解釈して応募してくださいということでした。木下さんの作品のテーマは?

「Think over」というタイトルをつけました。輪廻転生、人は巡り巡って何度でも生まれ変わるというのが大きなテーマです。去年の10月頃からヨガの勉強をし始めて、ヨガの教えの中で、人とのつながりだったりとか人生観が「Feel the People」とつながっているなと感じ、それらをニットで表現したいと思ったのが、このテーマに決めた理由です。

デザイン画には使用する糸の詳細も明記する

ー平日会社で仕事をしながらの作品制作で、大変だったことがたくさんあったと思います。

まずは、糸を選ぶ作業がすごく大変でした。応募する時に、色々なスピナーの糸が見られるサイトから自分が使いたい糸を選んで、編み方やゲージを書いて送るのですが、実際にセミファイナリストに選ばれたら、自分とペアリングされた工場の糸をもう一度選び直す作業が必要になりました。仕事が終わった後や、昼休みに調べたりして、作り出す前からてんやわんや(笑)。

先生から日本で糸ブックが見られる会社を紹介してもらった

私はファンシーヤーンや太番手の糸が得意なPecci Filati社とのペアリングでした。イタリアとの時差もありますし、在庫がなくて使いたい色が選べなかったり、決められた中で作らなければいけない難しさもありました。最終的になんとかイメージに近づいたのですが、当初思い描いていたものとはやっぱり違いましたね。

届いた糸。2体分で10kg

ー担当者とのコミュニケーションは全部、英語で?

私、英語ができないので、ChatGPTにメールを訳してもらっていました。本当にこの時代で良かった(笑)。それこそ10年前の学生時代には自分で辞書で調べながらとか、友達に聞きながらとか。かなり楽になりました。

ー制作のスケジュールは?

デザイン画の締切が1月初旬で、ファイナリストの連絡が来たのが3月初旬でした。そこから1週間くらいで使用する糸を選びます。ゴールデンウィーク中に作品2体を完成させ、作品撮りをして、写真を提出したのが5月中旬です。

パーツを編み立て、組み合わせていく

久しぶりに夜中まで作業をして、学生時代を思い出しました。職場から家までも1時間ちょっとあって、帰る時間も遅くて、そこから作業というのは結構しんどかった。土日に集中して作業をしていました。

ー印象に残っていることはありますか?

撮影はすごく刺激的で、想い出に残る楽しい時間でした。私の作品だけでなく、モデルさん、カメラマンさん、ヘアメイクさん、ロケーションがすべてマッチングして、作品の世界観をみんなの力で作り出すこと。自分の作品を違う視点や角度から見ることができたので、とても貴重な経験でした。

撮影は雰囲気に合う古民家で

モデルの子もインスタで探して、ダメ元で声をかけて。カメラマンはニット科の共通の友達に紹介してもらったアパレル技術科の卒業生。ヘアメイクは高校時代の友達。制作も、全部自分で編立(あみたて)するのは難しくて、ニット科の元先生がやっている工場にお手伝いしてもらいました。色んな人が協力してくれなかったら何もできなかったと思います。そういう人とのつながりに、感謝の気持ちでいっぱいです。

ー学生時代のことも教えてください。

実は私、アパレルデザイン科(以下、アパデ)からニット科に転科しているんです。私のひいおばあちゃんがお裁縫教室をやっていて、毛糸をくれたりしていてニットが好きになり、高校生の頃からおばあちゃんたちに混じって編み物教室に通っていました。その頃から文化服装学院に入学するつもりでしたし、入ったらやっぱりかっこいいじゃないですか、ファッションショーとか。デザインをもっと勉強したいなと思って、アパデに進級したんですが、ちょっと違うかな、やっぱりニットが好きだったなって思い出して。決意して、転科しました。ニット科に行ったから今があると思います。

ー木下さんが学生時代に参加した「Feel the Yarn」は、世界中の学校から選抜された学生が参加するコンテストで、現在の若手ニットデザイナー向けの「Feel the Contest」とは形式が異なったものでした。「Feel the Yarn」の思い出を教えてください。

ニット科2年生の修了制作で、3年生になった時にイタリアのコンテストに参加出来る人が選ばれますという感じだったので、気合いを入れて、1体でいいところを2体作って、絶対選ばれたいと思ってやっていたら、願いが叶って参加させてもらえました。転科しているプライドみたいなものもあったかもしれません。

工業機を使って3体制作したのですが、2年生は手編みで、3年生で工業機を習うので、まだ工業機のことも分からない中、友達も協力してくれて何とか完成させました。最初は文化祭ファッションショーのシーン長も掛け持ちしていましたが、コンテストに集中するために、シーン長はさすがに他の子に譲りました。

「Feel the Yarn」コンテストでイタリアへ2回行きました。1回目は作品に使う糸を選ぶため。イタリアの工場見学に行ける機会はなかなか無いので、すごく貴重な経験をさせてもらいました。かわいい糸をいっぱい選んだら、規定量をオーバーしてしまったり(笑)。2回目は、最終審査会でイタリアの国際展示会Pitti Filatiに参加し、作品を展示してもらいました。

Pitti Filatiでの展示の様子

ー学生時代の「Feel the Yarn」コンテストから経験も積み、今回ニットデザイナーとしてこだわった部分はありますか?

普段仕事では使えないような高級なイタリア糸だったので、素材の良さを引きたてること。すごく凝った編み方をするよりかは、糸の素材の良さを見せたいから、袖をシンプルに天竺で編んで洗いをかけ風合いを良くしつつ、度目調整で透け感を楽しんでみたり。あと、ニットの面白いところって、糸をミックスしてオリジナルの色や柄ができるところだと思うんです。違う糸を組み合わせることによって表情が変わる面白さも表現したかったので、パーツにより組み合わせる糸を変えてみたりしたところもこだわりました。編み方も、工業機メインなんですが、部分的にマクラメっぽい編み方をしたり、かぎ針で編んだり。装飾部分も自分の手で編んだりとか。

ネックラインや袖、スカートの装飾に手編みを

着方も色々出来たら面白いなと思って、肩の部分を可動できるようにしました。腰の部分も巻きスカートみたいになっていて、外して着ることができます。ひとつの服でも何通りかの着方ができる、そういうスタイリングの面白さみたいなことも提案しています。

ー後輩にアドバイスはありますか? 「Feel the Contest」だけでなく、コンテストに挑戦したい人に向けて。

やっぱりチャレンジ! とりあえず応募してみること。忙しいからとか、できないかも、じゃなくて、やってみる。今回経験して思ったのは、やらなきゃいけないと思ったら、自分もそのスケジュールで動くし、なんとかなる。働きながらも大変ですが、限られた時間の中での制作でしか生まれないものがあるかもしれませんよ。

ー今後の目標はありますか?

久しぶりに作品作りに夢中になれて、モノづくりが好きなんだなって再認識できました。これからも、モノづくりに向き合う時間を作れたらいいなと思います。自分の感性に共鳴してくれる人に自分の作ったモノを届けたり、何かしらの形で自分が作ったモノの発信や提供をしていきたいです。

Feel the Contest
主催:Consorzio Promozione Filati、Fondazione Pitti Immagine Discovery
賞:Made in Italyのカプセルコレクション制作
対象:22~35歳の新人デザイナー
提出作品:ポートフォリオ、CV、ニットウェアミニコレクション(2体)のデザイン画

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