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Loro Piana Knit Design Award 2位 チョ ウォンビン&橋本 菫

「ロロ・ピアーナ ニットデザインアワード」は才能ある若手デザイナーを発掘するため、イタリアのロロ・ピアーナ社によって2016年に創設されました。今回「Rediscovery(再発見)」をテーマに、このプロジェクトに取り組んだのは世界 7ヶ国のファッションスクールの学生たち。文化服装学院から選ばれたのは、ニットデザイン科のチョ ウォンビンさんと橋本 菫さんのチームです。約半年間にわたる彼女たちの「旅」を見ていきましょう。

ープロジェクトの始まりは?

チョ:先生からの指名です。ニットデザイン科2年生の時に、プロジェクト参加の意思を聞かれました。チームでのプロジェクトだったので、すみれを誘って参加することになりました。当時、めちゃくちゃ仲良かったとは言えませんが、一緒に出来そうだなと思ったんです。

ーパートナーが決まり、まず何から始めましたか?

チョ:お互いの好みを知ること。最初にプロジェクトのブリーフィング(説明会)がオンラインであったんですけど、「Rediscovery(再発見)」というテーマが設定されていたので、そこからお互いの「Rediscovery」が何かという会話から始めました。

橋本:一緒にご飯を食べに行ったりしながら、コンセプトをどうするかという会話をたくさんしました。お互いの意見とか、好みは全然違うんですけど、その中でデザインや考え方を擦り合わせたり、コミュニケーションをたくさんとりました。

チョ:自分はきちんと計画を立てるタイプではないんですが、すみれはそれが出来るんです。お互いの強みを知って、それを任せた感じかな。時間が一番大事だと思う部分は共通していたので、約束の時間や締切は守りました。

橋本:それが2021年11月頃で、糸のブックが入っている最初のボックスが届きました。そこから糸を選びます。

先生と糸のブックを見ながら打ち合わせ

チョ:海外のコンテストって、自分の個性を発揮することが多いと思うんですけど、今回はロロ・ピアーナに合わせることも重要だと思いました。自分たちの個性を大事にしながらも、テーマからは、あまりずれないように進めていきました。

橋本:こっちの方が自分たちの好みではあるけど、作るとしたらこっちだよねって。話し合いながら、どっちかが走りそうになったら止めて。

ーふたりが考えたコンセプトについて教えてください。

プレゼンテーションボード

橋本:私たちはコンセプトを「TABI(旅・足袋)」と決めて、旅すること、歩いたりすることと、日本の伝統の足袋を掛け合わせたんです。冬休みに足袋屋さんに行ってみて、実際にどういうふうに作っているかとか、そういうリサーチから始めて、図書館やネットで資料を調べたりとか、日本の伝統のリサーチをたくさんして、掘り下げていきました。

足袋屋さんでのリサーチ

橋本:2月くらいに進捗の打ち合わせもありました。自分たちのコンセプトはこれで、こういうのやろうと思っていますとプレゼンした時に、向こうのデザイナーさんたちからフィードバックをもらって、さらに方向修正しました。

オンラインでの打ち合わせ

チョ:その時に言われたのが、足袋とニットをどう掛け合わせるか。

橋本:足袋の生地は伸縮性がなく、伸縮性があるもので足袋を作ることはまずないと足袋屋さんで聞いて。私たち自身もプレゼンの資料として足袋を作っていますが、その時も編み地をフェルト化して、伸縮性がほぼない生地を使いました。

チョ:袋状の足袋から発想し、袋編みを使いました。あとは草鞋を編んでみたり、藍染や刺し子を取り入れたり。旅することの楽しさも表現したくて。

ーロロ・ピアーナのアイコニックなトラベラージャケットを再解釈することが課題としてありましたね。

橋本:スワッチ(編み地)がメインの成果物ではありました。自分たちの地域の伝統とニットを繋げることが求められていたので、コンセプトである「足袋」の要素を取り入れました。スワッチをかなり出した後にジャケットのデザインに入ったので、藍染だったり、そこまでで見つけた要素をジャケットに入れた感じです。

リサーチで染めた糸たち
藍染した糸を使ってグラデーションになるように

チョ:ジャケットは作らなくてもよかったんですが、作ったから2位がもらえたのかも。意欲も評価してもらえたのかもしれません。授業で制作するようなデザイン重視の作品とも違い、着心地も考えて制作しました。ロロ・ピアーナの素材がすごく良くて、素材の重要さが理解できました。

橋本:実際にロロ・ピアーナ銀座店を訪問した時も、経験したことがない着心地の良さにびっくりしました。

ロロ・ピアーナ銀座店にて

ー気に入っている、うまくいった編み地は?

チョ:フェルト化させた編み地。はっきりしたウェーブが、洗いをかけることによって、やさしい表情になりました。ニットっぽく見えないところが好き。「ゆらゆら」という名前を付けました。逆に一番の苦労は、2年生で主に習うのは手編みと家庭用編み機なので、コンピュータニットの知識がなかったこと。最初は先生に頼むのも申し訳なくて。それが一番辛かったな。

奥のピンクのスワッチが「ゆらゆら」。他にも実験的な編み地がたくさん。

ー2022年6月に行われたイタリアでの最終審査会にはコロナのために渡航できず、プレゼン用のビデオを撮影していましたね。

チョ&橋本:イタリアめっちゃ行きたかったです!

橋本:イタリアに行けないと決まってすぐ、最終審査会の2、3週間前には撮影しなくてはいけなくて。ロロ・ピアーナが用意してくれたプロのカメラマンさんやディレクターさんが学校に来てくれました。

チョ:国際交流センターのスタッフの方たちに英語のプレゼン原稿のフィードバックや修正をしてもらいました。より伝わるプレゼンになったと思います。

ー最終審査会では何を聞かれましたか?

橋本:「ポケットについてどう考えていますか?」と聞かれました。ポケット位置のデザイン意図を聞かれていたんだと思うんですが、私たちは「ニットだと重いから数を減らしました」と答えていました。後から冷静に考えたらチグハグだったかもしれない。あと、このコラボレーションで良かったことについても聞かれました。

チョ:他の学校も見たかったな。後で写真で見て、すごいなって思いました。

文化服装学院チームのプレゼンテーションブース
質疑応答はオンラインで
優勝したIFMのプレゼンテーションの様子

ーふたりはなぜニットデザイン科に?

チョ:もともと私は韓国からニット科を目指して留学して来ました。ニットの世界は広いし、いろんな可能性があって、まだまだ発見されていないことがあるような感じがして。技術を身につけたら、おばあちゃんになっても仕事が出来そうですし。

橋本:私はニット科に行こうとは思っていませんでした。基礎科(1年次)の時の進級する科の見学で「あ、ここ入ろう」みたいな感じ。文化服装学院も高校3年生の夏に初めて知ったくらい、いつも直感的に決めちゃう。ニット科は人数も少なくて、先生たちとの距離が近いし、クラス全体の雰囲気も穏やかです。

橋本:糸を混ぜて、自分のオリジナルのテキスタイルが作り出せるのがニットの特徴で、服作りの自由度がすごく高い。基礎科で布帛で制作していた時の気持ちに比べて、楽しいし、すごく自由にやっています。

チョ:そうです、自由!

ー今回のプロジェクトを通して、良かったことを教えてください。

橋本:海外の学生と同じテーマで制作して発表する機会なんてなかなか無いので、それがいい経験になりました。

チョ:素晴らしい素材に触れたこと。あと、パートナーって本当に重要だと思っていて、私たちは素直に意見を言い合えたり出来たのが良かった。

橋本:このプロジェクトは期間が長かったので、その間に就活をしていて、課題もあって、バイトもしてて、本当に時間なかった! 今はふたりとも就職も決まって、プロジェクトも終わってホッとしたけど、少し寂しい。

チョ:ふたりの間に信頼関係ができて、今も別のプロジェクトを一緒にやっています。

橋本:プロジェクトを通して仲良くなることはあると思うんですけど、それ以上の信頼関係を築けたことがこのコンテストで一番良かったことです。

ー最後に、海外のコンテストやプロジェクトに参加する際の心構えやアドバイスをお願いします。

橋本:いろんなハプニングがたくさんあると思いますが、落ち込まないでやること。臨機応変に動くこと。私たちも、最終審査でイタリア行けませんってなった時、すぐプレゼンのビデオ撮ることになったりしました。でも、そうなった時も、気持ちを切り替えて前向きに取り組むのが大事だと思います。

Loro Piana Knit Design Award
今回の参加校:
- IFM (Institut Français de la Mode) (フランス)
- シェンカー大学 (イスラエル)
- ミラノ工科大学 (イタリア)
- ヘリオット・ワット大学 (スコットランド)
- ノースカロライナ州立大学 (アメリカ)
- 東華大学 (中国)
- 文化服装学院 (日本)

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