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Coats x GFF Sustainability Competition インターナショナル部門グランプリ 天羽恵理紗

今年30周年を迎えた、イギリス国内のファッション系大学が一堂に会する卒業イベント『Graduate Fashion Week』が、6月のロンドンファッションウィークの時期に合わせ、卒業制作展、ランウェイショー、オンライントークショーなど、フィジカルとデジタルのハイブリッドで開催されました。そこで行われたコンテストのひとつ『Coats x Graduate Fashion Foundation Sustainability Competition』インターナショナル部門で文化服装学院の天羽恵理紗さんがグランプリを受賞。南米・ボリビア出身の彼女がファッションを目指したきっかけや、サステナビリティについて考えていることなどを訊きました。(2021/08/17)

ーコーツ(Coats)はイギリスに本社を置くサステナブルな糸製造会社で、今回のコンテストはステッチをポイントにしたアップサイクルウェアというテーマでした。天羽さんのコンセプトには「祖母にささげる作品」とありましたが、そのストーリーを教えてもらえますか?

私は17年間ずっと南米で暮らしていて、日本にいる祖母からは手紙をもらったりしていました。いつか私が日本に行った時には、離れていた時間を取り戻すように一緒に過ごしてみたいなと思っていました。でも4年前に来日して2、3ヶ月経った頃、祖母にがんが見つかり、亡くなった時には立ち会うことができなかったんです。そのあと、ひとり暮らしのために引っ越して、祖母が持っていたものを自分のアパートに引き取ったんですが、生地とか糸もいっぱいあって、自分の作品を作っていて糸が無くなったりしても、必ず同じ色があったりとか。見守られてるのかなと感じました。

今回の作品はもともと3年生のコートの課題として制作したものだったんです。この課題が始まった時に、ふっと祖母のイメージが頭に浮かびました。それで祖母の生地を使おうって。自分と祖母のつながりをただ表現したくて、祖母へのプレゼントということしか考えられなくて、思いが深い作品でした。そこから担任の先生が応募してみたらって勧めてくれました。本来はコンテストの募集があって、それから作るっていうパターンだと思うんですけど、私は前からアップサイクルをテーマにした作品も作っていたので、これは本当にぴったりでした。自分の個性を活かすためには、自分にあったコンテストを選ぶべきだと思います。そして挑戦してみる。ちゃんと心からモノづくりをしていたら、チャンスは広がると思います。

Model: Melissa Pyote / Photo: Hugo Justiniano / Assistant: Yugo Uehara

ー今までの作品制作でも、アップサイクルやサステナビリティを意識していたんですね。

意識してます。いま制作しているマイコレ(マイコレクション:ファッション高度専門士科の卒業制作)も全部リサイクル生地。学生にはエコやオーガニック生地がすごく高くて、買えないんです。1年生の時からセールになった生地をちょっとずつ買いためて、先輩の残布や友達の余った生地とか、少しずつ色んなところから引き取って、それをアップサイクルしています。あとはできるだけ無駄が出ないように、パターンを全部四角にしたり、生地の耳まで使ったり。

日本に来た時に、17年間の人生が、たった2つのスーツケースにまとまってしまって、服も全然持ってなくて、学生だからファストファッションしか買えない。そこで思ったのが、なぜこんなに服を安くできるのかなということ。そこからファストファッションへの疑問が出てきて、そこで人生で初めて、「ファッションデザイナーになりたくない」って思いました。だけどもう学校に入学していて、どうしようと思って父に電話したら、「問題がある時は、諦めずに問題を深く考えて、ちゃんと理由が分かってから結論を出しなさい」って言われたんです。それで、できるだけサステナビリティや自分が出来ることを探しながらやってきたんです。

ーよく若い世代ほどサステナビリティに関心が高いと言われていますが、同世代の人たちやクラスメイトと話していて実際にそう感じますか?

まだまだかもしれません。サステナビリティの本や記事、映画を見てシェアした時に「何でそんなに考えてるの?別に大丈夫じゃない?」と言われたこともあります。色んな考え方の人がいますし、私は私でひとつのアイテムでもサステナビリティのメッセージを込められたら、自分のミッションは完成かなって。

私たちクリエイターも、もちろん服を買うので、お客さんの立場として変えていかなきゃいけないこともあります。そういうところはファッションを勉強していてよかった。まだやることがいっぱいあると思います。若い世代でもトレンドに簡単に引き込まれてしまうし、SNSでインフルエンサーが着てるものを買ってしまう。そうではなくて、タイムレス、ジェンダーレスなものを見つけたり、お母さんやおばあちゃんのものを着たりするとか。難しい部分もありますが、バランスを取りながら、チャレンジですね。いつもポジティブでいたいので、自分のトレーニングとして問題が出てきたら解決したい。

ーファッションデザイナーになりたいと思ったきっかけは?

お母さんです。小さい頃に、白雪姫の描き方を教えてもらって、そこから丈を変えたり、色を変えたり、自分のイマジネーションを使いなさいって。私が服を作る人になりたいって言ったら、それはファッションデザイナーだよって言われた時。そこからずっと。14歳の時に、JICAから奨学金をいただいて1ヶ月横浜に来て、そこで今、日本財団からいただいてる奨学金のことを知りました。文化服装学院にも見学に来て、全部繋がってきた。日本に行きたい、ファッションを勉強したい、自分のルーツの文化を学ぶことができる機会だなって思って。頑張って良い成績をとって奨学金に応募して、ここに来ました。迷ってるときは、振り返って、7、9歳の頃とか、その気持ちを大切にしています。

先生に、なぜいつも笑ってるの?って聞かれたことがあるんです。日本は教育がいいし、医療システムもいいし、簡単にアルバイトとかもできる環境で、食べ物も100円のおにぎりとか食べられる。南米にはないんですよ。昼間に1人で歩くのも危ないんです。毎日楽しまないと、明日何が起きるのか分からない。それが普通とは言いたくないけど、リアルなんです。そこから日本に来て、自分の夢に向かってる。ずっとやりたかったことをやってるし、ファッションの技術とかも習うことができて、毎日楽しい。毎日新しいチャンス。だから毎日笑ってます!

ー2021年1月には、プラダ(Prada)の2021秋冬メンズコレクションで行われた、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)とのオンラインカンバセーションに学校代表として参加しましたよね。

最初はただ英語ができる人を探してますってことで、内容は全然知らなかったんです。ラフ・シモンズさんとミウッチャ・プラダさんと話しますって知った時は信じられませんでした。緊張と喜びで、今までお世話になった人の顔がぶわーっと頭に浮かんで、みんなに感謝しましたね。それからプラダの過去のインタビューを見ながら、英語ができる父と兄に相談しました。そこでリハーサルをして、手のひらに「人」を書いて食べるおまじないをやっていました(笑)。本番は自宅から繋いだんです。画面越しでしたが、ラフ・シモンズさんとミウッチャさんの優しさ、人間らしさがそのまま伝わってきました。

天羽さんは15:57〜。今回のコレクションとテクノロジーの関係について質問しています。

ー通常の授業や課題だけでも忙しい中で、こういったコンテストやプロジェクトへ積極的に参加するモチベーションを保ち続けています。自分なりのスケジュール管理や自己マネジメントのルールはありますか?

ひとつ目がパッション(情熱)、ふたつ目がペイシェンス(忍耐)。チャンスがいつも来るわけじゃなくて、投資のように先に何かをやらないといけないと思っています。2、3週間バタバタするかもしれないけど、締め切りがあって必ず終わるから。それが終わったら、喜びとか誇りを感じることができるから、頑張ろうって。今は遊ぶ時間よりも、新しいことを学ぶことを優先しています。それが最初は辛いんですよね。人は新しいことを身につけたり習慣にするときに、20日間かかるらしいので、自分で自分を応援することが大切だと思います。私がやっているダンスにも繋がるんですけど、鏡の前に立って自分のことを客観的に見る練習をする。他の人の話を判断するのは簡単じゃないですか。自分のことはなかなか。周りの人に相談することも大事だと思います。自分の持ってるものや周りを大切にすることですね。あと、体に大切なものは絶対疎かにしないこと。睡眠とお水、あとダンスも。3年生まではあまりバランスが取れなくて、1日2、3時間寝て学校に来て、徹夜もしたりしたんですけど、長く続かないので。8時間100%で集中して、あとは一息つく。それが今年の目標です。日曜日の夜、ちゃんと座って自分のスケジュールの優先順位と、自分の体の調子を確認します。

ー卒業後は?

今までの10年間はずっと文化服装学院を卒業する夢が強すぎて、全部この夢を叶えるために頑張ってきました。卒業後まず3年間は就職して、新しいこと、クリエイティブだけじゃなくて営業やビジネスのことを学んでから、デザインの仕事に戻って来たい。サステナビリティの修士を取るとか、デシグアル(Desigual)のデザインチームに入るとか、色んな夢があるんですけど、それが全部叶ったら、日本の技術やテクノロジーとボリビアの文化をミックスしたエコフレンドリーなブランドを立ち上げるのが最終的な夢です。文化服装学院を卒業する夢はもうすぐ達成するので、また小さいゴール、中くらいのゴールを作りながら、少しずつ、楽しみながら進んで行けたら。これから文化服装学院に入る学生さんには、私はアマゾンから来ましたよ、まだ道半ばだけど、みんなにも色んなチャンスが待ってるからって伝えたいです。

COATS X GRADUATE FASHION FOUNDATION SUSTAINABILITY COMPETITION
主催: Coats、Graduate Fashion Foundation
賞: UK部門グランプリ(1名)賞金 £250(約4万円)
インターナショナル部門グランプリ(1名) £250(約4万円)
対象:GFW参加校の最終学年の学生
提出作品:実物作品1体、最終作品の写真を含むプレゼンスライド、コンセプト文(500字)

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