見出し画像

研究ノート~メンヘラの言動・気質についてのイメージ~

どうも、部誌『文/芸 vol.7』に「<メンヘラ>についての試論」を投げて以来、メンヘラの研究をしている雲雀です。『文/芸 vol.8』の方にも「研究ノート〜ファッションから見たメンヘラのイメージ〜」という一稿を投げさせていただきました。

詳しくはそちらを参照した頂けると助かりますが(堂々たるステマ!)、実際のネット記事やブログ記事から読み取れるメンヘラについてのイメージを整理しなければならないという使命感に、筆者はいま駆られているのであります。その原稿ではタイトルの通りファッションという観点からメンヘラのイメージを整理しました。

ファッションの話と比べるといささか花がないようにも思われますが、ここではメンヘラの「言動」や「気質や性格」にかんする言説を整理していきたいと思います。



 先に二つのことを記しておこうと思います。一つ目は「イメージ」という言葉にかんしてです。当然のことですが調べてみると、「こういう人はメンヘラかもしれない」と「メンヘラとはこういう人だ」という二種類の指摘に出会います。この二つの決定的な違いは高校数学の「集合と命題」を思い出せば一目瞭然です。前者の命題(「こういう人ならメンヘラである」)と後者の命題(「メンヘラとはこういう人である」)はちょうど「逆」の関係にあるのですから。

しかしこの記事で整理するにあたってはこの二種類の指摘を一緒くたにしています。というのも、実際に多くの記事では(これもある種当然のことかもしれませんが)そのことについて考慮されていないようにも思われたからです。「イメージ」という中身のあるようでないような言葉遣いをせざるを得ない事情はここにあります。

二つ目は整理の仕方についてです。「メンヘラにかんする記事」を読んでいく中で、様々な「メンヘラのイメージ」に出会いました。そこで感じたのはそのイメージ一つ一つは個別のものとして捉えるべきではないのかもしれない、ということです。

むしろそれらが連なり合っていくつかの「メンヘラ」の側面を構築している、またはいくつかの「メンヘラ」のストーリーを作り上げているように思われたのです。とはいえ、ここで筆者の感じ取ったストーリーに即したまとめ方をしても、根拠なく色々な人の言説を並べ立てるだけになってしまうので、ここでは言説の要素の類似性に即して整理していこうと思います。

※イメージを整理する時点ではメンヘラのイメージについて、経時的な変容や書き手による違いを想定していません。というのも、イメージの変容を想定しようとすると書き手の属性や細かい更新日時を調べる必要が出てくるからです。とはいえ、最後を見ればわかるように、指示対象の変化を追おうとするのであれば、やはりイメージの経時的な変容についても射程しなければならないな、と考えているところです。



 まず多くの記事で見られるのがメンヘラは「悲観的な言動をする」という指摘です(1)。人の話を悲観的に解釈しがちだったり、「SNSでネガティブな発言ばかり」していたり(2)……と、コミュニケーションを取っていくとそのような「違いが出てくる人」としてイメージされていることが分かります。似たようなものとして、「いつも何かに悩んでいる」(3)や「気持ちの浮き沈みが激しすぎる」(4)という指摘を挙げることができます。

さて、「悲観的な言動をする」「SNSでネガティブな発言をする」というのは実際の言動に関わる指摘、「いつも何かに悩んでいる」「気持ちの浮き沈みが激しすぎる」というのは気質や性格、心の状態といった内面に関する言及と読むことができます。

先述のストーリーに即したまとめ方をするならば、ここで「いつも何かに悩んでいて心に余裕がなく、それゆえ悲観的な言動をしてしまう人」としてメンヘラのイメージを整理しようとすることになると思います。しかしここではそういうことは言わず、悩んでいたり悲観的だったりと接してみると暗い人という印象を持たれている、という言及に留めておきます(5)。

次に挙げられるのは「予定を細かく把握したがる」(6)「異常なほど愛情を求める」(7)「ソーシャル系のものでしつこく返事を送ってくる」(8)という指摘です。あるいは「自分に都合のいいように変換していく」「世の男性は自分を口説こうとしていると思っている」(9)といった指摘も見られます。こうした指摘からはメンヘラに対して「しつこい」「独りよがりだ」という印象を持っていることが分かります。

また似たようなものとして、「ケンカで絆を確かめる」(10)「精神疾患ではないが”共依存”等危険な事態に向かう可能性も」(11)など、具体的な関係性の在り方にまで言及した指摘も見られました。先述の「しつこい」「独りよがり」といった印象と合わせれば「束縛」に似た関係性を築きがち、というような印象を持たれているのかもしれません。

 


 さて、問いは少なくとも二つ挙げられると思います。まず、どうしてこうした印象が「メンヘラ」という言葉で表象されているのでしょうか?一つカギになるのは「精神疾患ではないが”共依存”等危険な事態に向かう可能性も」という記述にあるように思います。共依存など、不健全な関係性を表象する(想起させる)言葉として、メンヘラという言葉は手ごろなようにも思えるからです。ただ、そうだとしてもどうしてそのようになったのか、すなわち、メンヘラというスラングが生まれた当初本当に「メンタルヘルス板」にいるような人や「心に病気を患った人」を指していた(12)のだとすれば、どうしてこのようにこのスラングの指示対象が広がりを持つようになってきたのか、という問いは依然として残ります。

このことはもしかすると不健全な関係性の魅力(例えば、「病人」に憧れる感覚)の在処を探ることで一歩深まるのかもしれないし、あるいは「精神病理」に対する世間の捉え方の変化の中に手がかりがあるのかもしれません。

三つ目の問いはなぜ女性に関する記述の方が圧倒的に多いのかというものです。統計的なデータを取っているわけではないので、あくまで主観的な印象論にとどまってしまいますが、それにしても話題になるのは「メンヘラの女性」(だいたい、彼女や元カノがメンヘラで云々とか、メンヘラ女性に注意!とか、そういう触れ込みの記事が多いようにどうしても思われます)ばかりで、確実にいるであろう「メンヘラの男性」にかんする言及が少ないように思われるのです。筆者はこのことこそ「メンヘラの魅力」と強く関わっているのではないかと疑っています。いや、それもまた今のところ印象論でしかないのですが……。

いずれにしても現段階では何か答えを提供できる段階ではなく、やはり本稿はまとめに終始することとなりました。なんともこういう原稿を二つ書いてしまうとふがいない感じはありますが、それにしても誰も手を付けていない課題に手探りで挑んでいく、この快感だけは忘れないように、今後も深まりを追い求めていきたいものです。


注釈

(1)「メンヘラ女の特徴9つ」(http://za-sh.com/mental-health-woman-4310.html、2015年10月25日閲覧)やnietzsche「メンヘラ女子は可愛くても要注意!メンヘラ女子の特徴|JOOY [ジョーイ]」(https://jooy.jp/2975、2015年10月16日更新、2015年10月25日閲覧)など、枚挙に暇がない。

(2)「メンヘラ女の特徴まとめ【外見・見た目】 | 理想の彼女の作り方を0から学べる!モテコン」(http://motecon.net/?p=674&page=2、2015年10月25日閲覧)

(3)小嶋もも「メンヘラ臭が漂う!めんどくさい女の特徴・6選 | ハウコレ」(http://howcollect.jp/article/4314、2015年10月25日閲覧)

(4)Cathy-J.K.「”メンヘラ”ってなんの略語かわかる?よく聞く「メンヘラ女子」の本当の意味とありがちな特徴とは | by.S」(http://by-s.me/article/116803759459445598、2015年10月25日閲覧)

(5)根拠を持ってストーリーを語るにはより精密な調査が必要であるように思われますが、具体的にどのようなことをするとよいのか、筆者にはわかっていません。

(6)註3参照

(7)註4参照

(8)註1、「メンヘラ女の特徴9つ」参照

(9)註1、「メンヘラ女の特徴9つ」参照

(10)註3参照

(11)註4参照

(12)「メンヘラとは (メンヘラとは) [単語記事] - ニコニコ大百科」(http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%98%E3%83%A9、2015年10月25日閲覧)


筆者: 雲雀

紹介: よく自分が何を考えているのか分からなくなる人です。メンヘラの研究をしょうとしています。自己紹介したくありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?