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学生街のラーメン屋


 祝日の日に魁力屋のラーメンが食べたいと聡は、家族に告げた。図書館に本を返すついでに、散歩がてら歩いて、行った。テーブル席を待つ家族連れを横目で見ながら、カウンター席に進んだ。カウンター席には、コロナの影響で仕切り板置かれている。店員が着席と同時に手際良く取り除いた。
「私、あの仕切り板で食べると嫌い。だって、ブロイラーの鶏や豚小屋みたいにただ黙々と食べている姿は、餌を食べさせられいるみたいで嫌だわ」と茉里が嘆いていたことを思い出した。そんな客の思いを知ってか知らずか、さあと仕切り板を取り除く店の配慮に感動した家族だった。
ネットで魁力屋について調べると創業2005年とそんなに古くないのに驚かされた。また、京都の学生街のラーメン屋、出身でもある。京都ラーメンの本流である「醤油・鶏ガラベースに背脂」のど真ん中を行く魁力屋で、「まずは、生ビールを2つとつまみのセット、餃子をお願い」と頼んだ。妻の茉里と息子の征は、各々、醤油ラーメンと味玉ラーメンを注文した。

生ビールは、スーパードライを凍らせているので、キンキンに冷えていた。一気に飲む聡に、家族はいつものことだと無言だ。魁力屋の特徴は、刻んだ九条ネギが大量に置かれている点と沢庵が食べ放題な点、調味料の種類が半端なく大量にある点だ。「この沢庵がアテにちょうどいいんだ」
と聡が三切れほど備え付けの小皿に入れた。


いつも思うが、魁力屋には、ほどほどに可愛い女の子の店員がいる。
ブスでもなく美人でもない普通の女子高生や女子大生のようなバイトを見つける能力がある。聡は、この採用基準が気に入っている。邪魔でもなく、さりげなく迅速に対応する彼女達に驚かされる。女子店員に「生をください」と告げると。即座に飛んできて、厨房に「生、入りました」と大きな声で告げる姿が、清々しく感じた。

そうこうしているうちに、茉里と征のラーメンがカウンターテーブルに届いた。11時を過ぎて入った店も、気づけば、外の待ち合い椅子が満杯で行列が出来ていた。別に急ぐ必要もないが、〆に醤油ラーメンを頼んだ。結局、タイムラグがあって、二人を待たせる結果になった。手持ち無沙汰の二人が言う事は、決まっている。

「みんなと一緒にラーメンを注文すれば良かったのに」
とにかく、駐車スペースもあるので、車で乗りつけるファミーリー層が多い。ファミリーは、4〜5人単位で来るので、席も埋まる。味もさることながら、利便性や速さも重要なファクターだと聡は思った。

結構、気に入っていた花月嵐というラーメン屋も同じ街道沿いにあったが、ららぽーとの出現で閉店した。直撃を喰らった。というよりも、花月嵐の隣りにあったレンタルビデオ店も早々に閉店している。向かいにあったおしゃれな雑貨家具屋、インドカレー屋なども閉店した。だから、このエリアがロードサイド店に相応しくないと聡は分析した。

息子の征が小学生の頃、閉店したレンタルビデオ屋で、高橋瑠美子原作の「らんま1/2」や「アルプスの少女ハイジ」を借りて、息子と一緒に家族で観た。ハイジ愛が強すぎる聡は、家庭教師のトライのハイジをディスる広告が許せない。「教育関係者がやるとじゃない」と激怒する。この2つとも、結局全巻見てしまった。
征は、その他「ケロロ軍曹」「ぼのぼの」などのアニメを通して、漫画家の道に進んだ。

それほど、ひとりの人生に影響する店も時代の波に呑み込まれてしまう。ノスタルジックな気分になるが、反面乗り越えて来る店もある。環境もある。「学生街の喫茶店」のように「学生街のラーメン屋」も荒波を乗り越えてきたようだと聡は思った。

「美味しかったわね。豚骨ブームだけど、臭いがアウト。醤油がいいわ」
「僕も、背脂が効果があって、京都の味っていう感じが好き」と征。
「本当に、美味しかった」と聡。
「あんたは、キンキンに冷えた生ビールが気に入ったのでしょう。私も好き」と茉里。
なんだか、幸せ気分の一家だった。

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