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自然公園散歩



谷戸山という神奈川県立公園が座間にある。座間と聞くとアパートで若い女性など9人の遺体が見つかった残虐な事件を思い出す。そんな事件を思い出すこともないほど、自然がいっぱいな公園だ。敦も瑠璃子も大好きな公園の一つだ。「鴨が今年もいっぱい来ているね。鴨は裏切らない」「なんだか、アマチュアカメラマンがやたら多いんだけど。多すぎじゃねえ」確かに、アマチュアカメラマンが日曜日とあって望遠レンズを持って、押し寄せて来ていた。「今、この公園はちょっとしたバードブームなんですよ」と歩いていた人が言っていた。鴨だけでなく、フクロウやカワセミなどいるそうだ。

「カワセミは水辺に生息する小鳥。鮮やかな水色の体と長いくちばしが特徴。ヒスイ、青い宝石、古くはソニドリと呼ばれることもある。 」とウィキペディアに書いてあるくらい綺麗な鳥だ。カメラマンが公害のように扱われているのもこの公園だ。カメラマンの数が多いので、目立つだけでなく、鳥以外の生物も生息しているので、生息地を荒らすなどその他の生物への影響も大きい。何しろ多すぎると思うのが、一般の散歩や利用者の声。

自然を守りたいというバードウォッチャーも圧倒的に多いが、写真に撮って、SNSなどに投稿したい人たちの願望や行動ばかりが目立つ。何か解決方法がないものかと考えるが、欲望の方が勝つので、仕方ないと市民が泣き寝入りする。それでも、一日中いるわけじゃないので、諦めるしかない。そんな騒動の中、鴨のいる「水鳥の池」から離れると静かな公園に戻る。冬の木漏れ日からさした暖かい陽が二人を穏やかにさせてくれる。3〜4歳くらいの親子連れも圧倒的に多い。広場で、芝生にシートを広げ、食事をしているカップルもいる。いわゆる、ピクニックだ。チワワやプードルなど小型犬をリードで繋ぎながら歩いている家族もいる。各々が各自のライフスタイルに併せて自由に楽しめる公園だ。コンクリートが張ってあるパークセンターの近くの広場では、ボール遊びやスケートボードのようなブレイブボード(リップスティック)やキャスターボードなどで小学生が遊んでいた。

敦は、パークセンターにあるスタンプをノートに押すために入った。スタンプ好きなのには理由がある。昔スタンプブームが起こった。駅スタンプが国鉄(現JR)のキャンペーンと同時進行的に始まったアンノン族現象が起こり、従来の旅行と全く異なる旅行スタイルを確立した時代だった。国鉄の「ディスカバージャパン」という国内旅行キャンペーンが大流行した。アンノン族とは、1970年代中期から1980年代にかけて流行した現象で女性ファッション誌の「アンアン」と「ノンノ」から出来た造語だった。その旅先の駅に設置された駅スタンプがブームになった。そんなわけで、その時期に若者だった老人たちが、スタンプを見ると押してしまう。その証拠に、敦より10歳若い瑠璃子は全く興味すら持たない。短期間のベビーブーマー限定のブームだったようだ。

雑誌連動型のキャンペーンは、有名な観光地だけでなく、小規模な町が雑誌に載ってブームになっていった。例えば、小樽の運河とガラス細工、軽井沢、清里高原、飛騨高山、輪島、金沢、中山道の妻籠宿、馬籠宿、奈良井宿、京都の大原や嵯峨野、倉敷美観地区、萩と津和野などが挙げられる。確かに、歴史と和風な雰囲気にある町がチョイスされた。しかもそこに集中的に女子大生からOLの18歳から20代の未婚の女性たちが訪れた。今なお、熟年になった彼女たちを取り込もうと新たな挑戦が行われているとメディアが報じていた。「コロナ禍の中、GO TOトラベルも危ういが、旅行好きな日本人は、国内旅行に行きたいと思っているはずさ」と敦が言う。「間違えば、GO TO ヘル(地獄)よ」と瑠璃子が返す。思い出だけでは、うまくいかいものだ。「やっぱり、自然公園散歩が一番安全か」

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