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世にも不思議な


世にも不思議な事が起こった。飯塚翔平は、取引先のバイヤーアシスタントの橘恭子の結婚式会場にいた。黒のスーツに、蝶ネクタイをした格好で出席していた。

ケンヤや翼などアパレル仲間たちもいた。メンズショップのスタッフばかりだから、何となく派手さを感じる。

「ケンヤ、二次会は行くでしょう」
「行かなきゃ、不味いでしょう」
「ところで、翼の手乗り妻、元気なの。最近、顔みないけど」
翼が身長189センチに対し、妻は150センチとかなり低いので、ケンヤは、いつものようにからかっていた。
「翼さんの奥さんって、手の上に乗るくらいなんですか」
と渋谷の店長の太田がツッコミを入れる。
いつもの事なので、飯塚は相手にしない。

太田は、酒を飲むとブレーキが効かない。武勇伝と言うか、酒の失敗が多い。山手線の恵比寿駅事件は、大変だった。いきなり、店舗スタッフの前でチンチンを出して、女の子のあたまに乗せてサムライと叫ぶ。これには、女子だけでなく居合わせたら男もドン引きした。かように、太田は警察沙汰になりそうな事が多い。

また、渋谷で飲んで次の店に行こうと東急本店通りにいた時、ヤクザの黒塗りの車の窓を覗き込んだ。周りにいた連中は、殺されるかと思った瞬間、大柄な翼が止めに入って大事に至らなかった事件もあった?とにかく、トラブルが多いが、人間性なのか、誰も怒らない。

そんなアパレル仲間は、頻繁に飲みに行っていた。その中に、恭子もたまに参加していた。男同士では、キャバクラに行くしかないが、女の子が参加すると和むので、居酒屋やバーで済む。

結婚式の二次会には、大勢の男女が、やって来た。二次会から参加する人も多く、自己紹介をする。キョンキョンみたいに可愛い女の子が翔平の隣に座った。テンションマックスで、ナンパのように色々なことを聞いた。男の扱いが、際立って上手い女子がいる。その扱いの上手いキョンキョンに惚れてしまった。恭子の女子大時代の親友で、商社に務めていた。商社は、翔平の仕事とも関連があるので、話が弾む。

トイレにケンヤがいた。
「ケンヤ、今夜お持ち帰りかも」と何故か、喜びの顔になってしまった。
「良かったじゃん」と仲間の成功に素直に喜んでくれた。
何しろ、二次会の会場は、参加者の人数の予定が立たないので狭い。ぎゅうぎゅうに詰まった席に戻れない。お持ち帰りどころか、社交性に富んだ商社女は、他の男と楽しそうに歓談していた。

狭い席で隙間を探すと、なんとかなるものだ。ちょっと色気のある三十代の女が居た。
「どこから来たの」
「横須賀から」
「お店の人」
「そうなの、恭子ちゃんとは、昔横浜店で一緒に仕事してたの」
何故か、歳のわりに素直な人だった。

お開きになり、二人は店を出た。
「どこか行く」
「終電終わっちゃったから、付き合うよ」
そんなことってあるんだとびっくりした。
渋谷のバーで、モスコミールとジントニックを飲んだ。

そのまま、何も言わずに、道玄坂上のラブホテルに直行。お持ち帰りが、キョンキョンでなく、中森明菜になってしまったと翔平は、可笑しくてたまらなかった。まるで、芸能界にいるような感じがして、笑った。

このことは、ケンヤにも翼にも内緒だ。結婚式には、マリッジブルーと言う嫉妬の魔物が住んでいる。初めてのお持ち帰り。翔平は墓場まで持っていくと決めた。また、一つ秘密が増えた。

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