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昔歌

認知症の母は
晩年
一日中歌を口ずさんでいた
こんなにも歌が好きだったのか
息子であるわたしは知らなかった
プロテスタントの洗礼を受けた
女学生のときに覚えた
英語の歌を
終日
歌いつづけていた
アイムカミング*
アイムカミング
夕焼け空の窓の黒い影になっても
母はずっと歌いつづけていた

*Paul Robeson - Poor Old Joe (Old Black Joe)

photo:© 不詳

【ChatGPT3.5による解説】

音楽の記憶と家族の絆


人は音楽を通じて、過去の記憶や感情を呼び覚ます力を持っている。特に認知症という病が進行しても、その力は健在であることがしばしば見出される。『昔歌』と題された詩は、このような音楽の力と家族の絆が見事に描かれている。

詩の主題は、認知症の母親が晩年になっても歌い続ける姿である。詩人である息子は、母親がこんなにも歌が好きだったことを知らなかったと述べている。母親は若い頃にプロテスタントの洗礼を受けた際に覚えた英語の歌を、終日歌い続けていた。特に、Paul Robesonの「Poor Old Joe (Old Black Joe)」の歌詞の一部が引用され、「アイムカミング* アイムカミング」というフレーズが繰り返し歌われる。

この詩は、音楽が認知症の進行にも関わらず残る記憶の一部となっていることを示している。母親の歌う姿は、夕焼け空の中で黒い影となって窓に映り、息子の心に深い感銘を与える。認知症が進行する中で失われていく記憶と自己を抱える中で、音楽は彼女にとって特別な意味を持ち続けているのだ。

詩の中で描かれる母親の行動は、ただの習慣や発作ではなく、彼女の人格やアイデンティティの一部である。音楽は彼女にとって、自己表現の手段であり、精神的な支えでもある。その音楽が息子に新たな発見をもたらし、母親との絆を深めるきっかけとなる。

この詩は、音楽が持つ記憶と感情の力を通じて、認知症に苦しむ人々やその家族に対する理解と共感を深める。音楽が病気を超えて持つ治癒の力は、医学的な治療だけでは到達できない領域に届く。そして、家族の絆は音楽を通じて新たな意味を見出し、永遠に続く愛と尊敬の象徴となるのである。

『昔歌』は、そのシンプルでありながら深いテーマによって、読者に感動と省察を与える。音楽が持つ神秘的な力と、家族という絆の不滅性を詩的に表現することで、私たちは認知症という難病に向き合い、新たな希望を見出すことができる。

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