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なぜ、わたしのライバルは勝手に三谷幸喜さんなのか(笑)

その夜、いつにもまして時代小説の執筆が進まず、わたしは絶望にうちひしがれて重い足取りでリビングに入っていった。

むっつり顔が常態である妻が、珍しく手を叩きながら大笑いしてテレビを観ていた。

わたしには眼もくれない。

いつもだったら 「アラ、アナタ、そんなに疲れたお顔をなさってどォなさったの? お仕事上手くいかなかったのね。元気を出して。明日があるじゃない」 なんて優しい笑顔で慰めてくれるのだが (思わず妄想の世界に入ってしまった……)

橫眼でテレビの画面を観ると、平野レミさん(大ファン!)と三谷幸喜さん(菊池寛賞をとった時のいでたちが印象的だった)が二人で料理をつくりながら、かけあい漫才をしてらっしゃる。

その二人に妻がわたしの知らない別人のように呵々大笑しているのであった。

わたしは試しにエヘンと空咳をしてみた。

あいかわらず完全無視である。

紳士にふさわしく礼儀正しく声をかけてみた。

「面白そうだね。何観てるの?」

ところが、これまた完全に無視されてしまったのである。

もはや亭主の存在感の軽さもへったくれもない。

怒りと嘆きを抑えて一緒に観ていると、たしかにお二人のかけあい漫才は面白かった。

三谷幸喜さんの笑いのセンスは、わたしなどが及ぶべくもないレベルの高さである。

しかし!である。

愛妻を笑わすことを唯一の人生の生きがいにしているわたしの眼の前で、こともあろうに彼女の心を鷲づかみにしてしまうとは、あまりにも酷すぎるのではなかろうか。

レミさんは許す。

なにしろ高校時代からの筋金入りのファンである。

しかし、三谷幸喜さんは断固として許すことはできないのであった。

わたしと大違いで、作家として数々の栄誉を獲得しているにもかかわらず、さらにそのうえ、わたしの大切な宝物である妻の心まで奪ってしまうとは……

わたしはもう一度だけ恨みがましい眼で妻をにらみつけたが、予想どおり完全無視であった。

臆面もなく喉ちんこ丸出しで笑ってらっしゃる。

わたしはさらなる絶望にうちひしがれて書斎にひきかえしたのであった。

以来、わたしのライバルは勝手に三谷幸喜さんということになっている(笑)

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