川で溺れた想い出
少年時代、川で溺れかけたことがある。
恐怖体験というよりも、仮死の悦楽体験と言ってもいいような奇妙な記憶である。
溺れながら、足をひと搔きさえすれば容易に浮上できると想いつつ、何者かに両足を引っぱられるようにゆっくりと沈んでいった。
そのときは全然息苦しくなかった。
頭上の水面が、真夏の陽光を乱反射してまるで天国がひろがっているよう視えた。
死と向きあいながら輝ける官能の光の洪水に酔いしれていた……
ハッと気がつくと、わたしは川岸にたどりついていて、激しく呼吸しながら水を吐いていた。
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