ヒップホップ文学(井沢)
被ったフードにサングラスの兄ちゃんが向かいの席に座った。ドクロの指輪を付けたほうの手に文庫本を開いている。電車は光のどけき午後、座席もやや空いている。何の前ぶれもなく、空いてるほうのいる手でヒップホップなキメ仕草を2、3ポーズキメた。目線は本から動かない。サングラス越しでも分かる。2秒ほどの静止、また何事もなかったように文庫を読み続けている。
何?
というか何の小説だそれ。ヒップホップ文学か。B-BOYブンガクか。私は不真面目に薄ぼんやりとヒップホップ文学というものを思い浮かべてみた。
【ヒップホップ文学】
・文末が韻を踏んでいる
・単語を連ねて踏んでいる
・見開き単位で踏んでいる
・ノンブルさえも踏んでいる
・固有名詞(ブランド名等)の多用
・必然的に体言止めが多くなりがちなところを作家性でなんとかする
・挿絵がバンクシー
・装画がキースへリング
・紙面的な余白は落書きで埋めるのがCool
なんてこった。凡人すぎる。ステレオタイプなことしか浮かばない。大事なのは一文読むたびに手が動いてしまうリズム感だ。
まさか、あれは歴史年号語呂合わせとか、世界史・日本史用語暗記帳だったのではなかろうか?
・墾田永年私財法
・スリジャヤワルダナプラコッテ
・マルクス・アウレリウス・アントニヌス
・いよくにがみえたコロンブス
・いや〜ござったペリーさん
・ひとよひとよにひとみごろ
こっちの方が手が動く…!
考えながら気付くと手を動かしている。あらやだ、めっちゃイル。私のスキル。
しかし、これを極めていくとレキシというアーティストに流れ着くのではないか?
それはヒップホップ文学なのだろうか?
しかしそこにはいとうせいこうがいるだろう。
ならいいか。
ならいいな。
電車が目的地に着いたので降ります。
ふぉーん(なんか汽笛みたいなSE)
ー了ー
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