カマキリ人間(モンゴノグノム)

「お前が、なに、カマキリ人間?」

「はい、カマキリ人間です」

「はい、カマキリ人間です、ってそれさ、言ってて恥ずかしくないの?」

「だって、カマキリ人間ですもの」

「じゃあ、カマキリ人間には恥も外聞もないってわけ?」

「いえ、そうではなくて」

「そうじゃんよ」

「じゃあ例えば貴方、自分が恥ずかしいですか?」

「いや別に」

「ね?僕だってそしたら恥ずかしくないですよ」

「いやいやいや、カマキリ人間と一緒にされたくないんですけど」

「あっ、そうやって差別するんですか?」

「差別というかさ、だってなにその頭から飛び出してるの」

「触角ですね」

「そうですか、触角ですか」

「なんですかその馬鹿にした言い方」

「馬鹿にするというかさ、じゃあ聞くけど、それは何の役に立つんですか?」

「気流や熱を感知するんです」

「じゃあそれでまずお前、空気読めよ。カマキリ人間じゃねえんだよこのご時世にさ。俺のこの凍てつく冷気を感じ取ってくれよ、触角を研ぎ澄ましてさ」

「そういう意味の気流とか熱じゃないですよ」

「わかってるよそのくらい。そのくらいわかってる、ってことをわかれよ。そういうところのことを言ってるんだよ俺は」

「というかむしろ、カマキリ人間である僕の方が貴方よりも優れてるわけですよね?」

「何それ」

「だって触角もあるし、手も鎌にできるし」

「えっ、手を鎌にできるの?初耳なんですけど」

「できますよ」

「やってよ」

「じゃあ、僕のこと馬鹿にしないって誓いますか?」

「別に馬鹿にしてないけどさ」

「馬鹿にしないって誓いますか?」

「まぁ、鎌次第だよね」

「じゃあ鎌が凄かったら、馬鹿にしないって誓いますか?」

「そういう粘着質なところが卑屈なんだよな、お前って」

「じゃあいいですよ。もう手を鎌にしませんから」

「あっ、でましたでました卑屈な精神。そういうところね、俺が言ってるのは」

「もううるさーい!」

「うわあ、鎌になった!すげえ」

「凄いですか?」

「凄い凄い。鎌じゃん、本当に」

「鎌ですよ、カマキリ人間ですから」

「というか、本当に、あの道具の方の鎌なんだね。カマキリのカマというか」

「リアルを追求してますから」

「いや、昆虫側のリアルを追求しようよ」

「カマキリじゃなくてカマキリ人間ですから」

「で、それさ、手を鎌にして何か役に立つわけ?」

「え?」

「役に立つの、その鎌?」

「攻撃ですね」

「攻撃って、小学生じゃないんだからさ。日常生活で、攻撃が必要な場面がありますか?」

「愛する人を守る時ですかね」

「愛する人って。愛する人って誰よ?」

「コズエちゃん」

「え?」

「コズエちゃん」

「なに、あの、木の、梢?」

「人の名前です!」

「カマキリ人間?」

「違います」

「じゃあ、何人間?ゴム人間?」

「普通の人間です。ヒューマン・ビーイング」

「お前さ、カマキリ人間としてのプライド持てよ。カマキリ人間愛せよ」

「恥ずかしいと思え、って言ったり、プライド持て、って言ったり、どっちなんですか」

「己の恥ずかしさを誤魔化すな。己自身を真摯に受け止めて、己の軸を見定めろ」

「そんなこと言ったって、カマキリ人間の女の子は、交尾が終わったら男のこと食べちゃうんですよ」

「お前、いきなり下ネタかよ。勘弁してくれよ」

「下ネタじゃないですよ」

「ド下ネタだよ。いきなり『交尾』とか『食べちゃう』とか、びっくりしちゃったよ」

「カマキリのメスは交尾が終わったらオスを餌にしちゃうの、知らないんですか?」

「俺がカマキリの生態に詳しいと思ってるの?俺はファーブル博士かって話だよ」

「常識ですよ、常識」

「非常識的な存在であるカマキリ人間に常識とか言われたくないしね」

「そんなこと言ったら、貴方だって非常識的な生物ですよ」

「まぁ、マクロな視点で言ったらね。地球という奇跡の星に生を受けた、奇跡の生物かもしれないけどね」

「いや、そうじゃなくて」

「じゃあ、なによ」

「貴方なんか、ブロッコリー人間じゃないですか」


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