自分の感情に出会いたいあなたに『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』
あなたはなぜゲームをプレイしていますか。
暇つぶしをするため。
ストレスを発散するため。
好きなゲームがあるから。
友達とオンライン対戦をしながら色々話したいから。
小さい頃からゲームをプレイするのが日課のようなものだから…。
色々な理由があると思います。
私は、気分転換をしたいときにはスマホで3マッチゲームをしますし、FPSについては自分が強くなる瞬間を感じられるのが楽しくてプレイしています。
そんな私が『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』に出会ったのは2022年11月のこと。本作をプレイして、私は自分のほんとうの感情に出会うことができました。
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の世界へようこそ
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は、今から約1年前の2022年11月にソニー・インタラクティブ・エンタテインメントから発売されました。開発は、ゴッド・オブ・ウォーシリーズなどのアクションゲームを製作しているSIEサンタモニカスタジオ。
本作は、北欧神話が舞台の前作『ゴッド・オブ・ウォー』の続編として発売されると、全世界で大ヒット、売上本数は2か月あまりで1,100万本を突破しました。
さらに、The Game Awards 2022では、Best Narrative賞やBest Performance賞(クレイトス役のクリストファー・ジャッジ)など全部で6つの賞を受賞しています。
しかし、このゲームの真髄は「たくさん売れた」「偉大な賞を取った」といったところではない部分にあると、私は思っています。
圧倒的なグラフィックとローカライズ
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は、圧倒的なグラフィックでプレイヤーを魅了してくれます。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の公式サイトによると、30FPSのフル4K解像度または60FPSの4Kにアップスケーリングされた動的解像度でプレイが可能。
本作をプレイしていると、その画面の向こうに広がる、息を呑むほどに美しい世界へ引き込まれます。景色の美しさはもちろん、キャラクターの身体の動きや顔の表情の変化も、手に取るように伝わってきます。
グラフィック以外にも、ゲームの中のロード時間やキャラの移動時間も「待っている」ことを感じさせない演出が盛り込まれており、「あれ、私の家はTOHOシネマだったかな?」と錯覚しそうになるほど、ゲームの世界に没頭することができるのです。
また、『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』のローライズも「最高」の一言に尽きます。私は本作のローカライズが好きすぎて、ゲームをプレイしながらシネマ部分のセリフの対訳表をエクセルシートに集めました。(オタクっぷり全開のムーブがばれちゃって恥ずかしいので、ここだけの話にしておいてください)
クレイトスとアトレウス父子の絆とそれぞれの成長
『ゴッド・オブ・ウォー』の「北欧神話」シリーズは、クレイトスとアトレウスという父子の関係が中心となっており、今作ではこの二人がプレイアブルキャラクターです。
ギリシャ神話シリーズからの主人公であるクレイトスは、神と人間の女性の間に生まれたスパルタの戦士。そのクレイトスと巨人族のフェイの子であるアトレウスは15歳くらいの思春期で、難しい年頃の青年です。
前作『ゴッド・オブ・ウォー』のストーリーはこちらの動画でチェックできるので、気になる方は見てみてくださいね。
前作の『ゴッド・オブ・ウォー』では、クレイトスにとっては最愛の妻、アトレウスにとっては最愛の母であるフェイを亡くし、生前のフェイの願いを叶えるためにクレイトスとアトレウスは旅に出ました。
その旅で二人には父子の強い絆が生まれましたが、旅からしばらく経った場面から今作のストーリーがはじまります。
長い戦いの日々を通じて、クレイトスとアトレウスは大きな成長を遂げました。クレイトスは、より賢明で息子思いの父へと成長し、若くて好奇心旺盛なアトレウスは、父から戦闘だけではなくさまざまなことを学びながら、大切な父を守ろうと奔走します。
今作でも、クレイトスとアトレウスが運命の輪に巻き込まれながら、人として、父子として成長を遂げる姿がプレイヤーの心を震わせます。
多彩なキャラクターとその機微
本作ではアトレウスとクレイトスに限らず、二人以外のたくさんのキャラクターの機微も丁寧に表現されています。
たとえば、前作でアトレウスの命を救い、さまざまなサポートをしてくれた森の美女フレイヤ。
彼女は、大事な一人息子であるバルドルをアトレウスたちに倒されてから、ゲーム序盤からフルスロットルで二人に復讐するために現れます。フレイヤの母としての強い愛が憎しみと疎外を生んでいる様子には、もどかしさを感じずにはいられません。
次に、ドワーフの兄弟ブロックとシンドリにも注目です。
前作では、けんか別れの後に仲直りをして共に暮らしはじめていた二人。今作では、ブロックの秘密が明らかになり、さらにシンドリとクレイトスたちとの関係も大きく変化します。誰かを大切に思うとはどういうことなのか、友人とどれくらいの距離を取るべきなのか…そんなことを考えさせられます。
ほかに、世界の中心アースガルズに住む神の一族・アース神族を束ねる、主神・オーディンの家族関係も、琴線に触れるものがあります。
偉大な父オーディンに罵倒され、自己否定され続けて育ったトールは毎晩のようにアルコールを飲み、現実から目を背けようとしています。(物の見事なビール腹は愛嬌たっぷり!)
そして、そんなトールの側にいる妻、息子たち、娘との関係に、自分の親子関係との共通点を感じる人も多いのではないでしょうか。ベロベロに酔っ払った父を酒場から連れ出して声をかけるけなげな娘の姿に、私は胸を打たれました。
ラグナロクとは、北欧神話では終末、つまり終わりの日のこと。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は、ラグナロクを控えた神々や人間の愛と友情、そしてひとりひとりが運命を切り開いていく物語なのです。
多様性を受け入れるための感情の旅
『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は非常に魅力的なストーリーです。
感動・悲しみ・怒り…ストーリーを通じて、プレイヤーの心にはさまざまな感情が湧きます。私も『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』をプレイして、自分でも驚くほど感情が揺さぶられました。
私は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』はクレイトスとアトレウスの姿を通じて、プレイヤー自身の感情を探す旅に出るゲームなのではないか。そして、自分の感情を押し殺したり、見失ったりしている人に、やさしく寄り添ってくれるゲームなのではないか、と感じています。
自分の感情との出会い
私は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』をプレイしていたとき、さまざまなキャラクターたちに深く感情移入しました。特に涙なしにプレイできなかったのは、クレイトスとアトレウスの父子の関係が悪くなった後に、仲直りする場面です。
私が『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』をプレイしはじめたのは、今からちょうど1年前。義父の体調が悪化し、入退院を繰り返していた頃でした。
私の実の父は、私が学生の頃に亡くなっていて、義父は私にとって「父という存在の穴を埋める」以上の大きな存在でした。
クレイトスが、いつか来る厳しい戦いに備えるために息子アトレウスに稽古をさせたり、隠し事をするアトレウスに怒鳴ったりする様子を見ていると、自分と父や義父とのやりとりを思い出さずにはいられませんでした。
また、息子アトレウスが父を守るために奮闘する姿もとても愛おしく、生前の父と義父にろくな親孝行もできなかった私は、ときにアトレウスが羨ましくも感じていました。
ゲームの中盤、死者が集まる地獄ニヴルヘイムで、気持ちがすれちがっていたクレイトスとアトレウスが仲直りをするシーンがあります。決して派手なシーンではありませんが、私はこの二人のやりとりがとても好きです。
親子の会話は、車の中だったり、夜ご飯を食べているときだったり、ふとした日常の中で発生するもの。自然に自分の思いを吐き出し、お互いの気持ちを確かめあうこのシーンを見た私は、一旦ゲームを停止して、あふれて止まらない涙をティッシュでおさえました。
クレイトスとアトレウスを通じて、私は自分がいかに家族との時間を愛おしく、大切に思っていたのかを改めて知ることができました。
運命は我らが切り開こう
私はゲーム翻訳のお仕事を始めて少し経ちましたが、後悔することばかりでしんどくなる瞬間がありました。
交換留学に行ける高校へ進学したのに、なんで留学しなかったのか。
大学生になってから留学すればよかったのに、なぜできなかったのか。
お金がなかったことを理由にしたけれど、他になにか方法はなかったのか。
そんなふうに、これまでの人生で「できなかったこと」を思い返しては、後悔の気持ちに押しつぶされて苦しくなっていたのです。
でも、もし高校の頃に留学していたら、父と過ごせた時間はさらに少なかったでしょう。
私がすべきなのは過去を振り返ることでも、後悔をすることでもありません。今の私が鍛錬を重ねた先にできる仕事が、きっとあるはず。私はそれを目指すべきなのです。
そう思えたのは『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』のクレイトスとアトレウスの生き様を見たからです。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』をプレイしている間、私は、クレイトスとアトレウス、そして他のたくさんのキャラクターの感情と行動を体験できました。
それはきっと圧倒的なグラフィックと日本最高峰のローカライズで、俳優の方々の素晴らしい演技を感じられたからに違いありません。
年を重ねるにつれて、これでよかったのか、これでいいのかと優先順位の付け方に悩み、不安になる場面が増えてきました。
でも、私は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』で自分の中の大切にしたいことや、幸せの輪郭がはっきりとしました。
幸せな運命は、自分で切り開いてこそ掴めるものなのだと『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』が私に教えてくれたのです。
多様性のある社会で頼りになるもの
ゲームで体験する感情の多様性は、現実の世界で多様性を受け入れるためのよりどころになります。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』に登場するたくさんのキャラクターの機微を感じることで、異なる背景や視点を理解できるようになるでしょう。
そして、いろんな情報が手軽に手に入る令和の世の中で、結局一番頼りになるのは自分の感情です。でも、自分の感情の理解はなかなか上手くいきません。
自分が何を見て喜び、何をしているときに幸せを感じるのか。
即答できないあなたに、私は『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』をプレイすることをおすすめします。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の多彩なキャラクターが、きっとあなたに生きるヒントをくれるでしょう。
一緒に感情の旅に出かけませんか。
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本稿は「ゲームとことば2023」のお題「○○な人にオススメしたいゲーム」向けに執筆したものとなります。
昨年の「ゲームとことば2022」で寄稿した記事はこちら
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