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恐怖仮面(46)

 翌日、虎次郎と私は、二人で直接、蒲田の帝都映画撮影所へと向かうことにした。
 本庄刑事がいる場合は、警察の顔のお陰で、何かとスムーズに捜査が出来たが、これから深い部分まで探りを入れるときは、虎次郎のような民間探偵が上手くいく場合もあるだろう、と私は思った。
 警察には言いたくないことでも、民間人にはポロッと言うこともあるのである。
 午前中に到着して、事務所で、北川マネージャーと会う。彼は少しやつれていた。
 「絹代の葬儀には行かせてもらいます。それまで、色々会社の方で用事が立て込んでましてね…なかなか霊前にも参れず、礼を欠いておりました」と、北川は言った。
 「今日はね、北川さん。絹代さんは、中々、この会社の俳優や、裏方さんたちには、胸襟を開かなかったたらしいのですが、その中でも、少しは交際のあったかたはなかったか、聞きたかったのです。どなたか記憶にありたせんか?」と、虎次郎は尋ねた。
 北川は少し考えていたが、
 「そういえば、彼女と同期の吉沢きみ子という女優とは、少なくとも二、三回は食事には行っていましたね。雑誌なんかでは、同期で、雰囲気も似ていた二人を、やれライバルだなんだと煽っていましたが、本人同士の仲は良好だったと思います」と言って、別の人物に、きみ子のスケジュールを聞いた。
 その人物が言うには、きみ子は、今日は田園調布の自宅にいるという。来意を電話で伝えると、「絹代さんのことなら勿論お待ちしています」とのことだった。

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