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フィリップ・K・ディック「マイノリティ・リポート」を読む3

結局アンダートンはカプランを暗殺し、植民地惑星送りの流刑になる……というのが、「マイノリティ·リポート」の結末だ。

ディックが傾倒した作家の一人でもある、ドストエフスキーの「罪と罰」にも、その「流刑」という結末は似ている。

警察と軍のパワーバランス的なテーマのアクションSFといった内容だが、それは全体を見回したパッケージ的なものであり、中に入っているものは、結構後期ディックに繋がる、色々なテーマであると思う。

最初、アンダートンは3人のプレコグ(予知能力者)の一人が、少数報告(マイノリティ·リポート)として「アンダートンがカプランを殺害しない未来」に言及したテープを残していたことに気付く。

アンダートンはそれを回収する。

(このテープが実は、元将軍カプランにとっては、警察の犯罪予防システムの瑕疵の証明であり、警察権力の接収へと至る、彼の野望へのコマとなるのである)

しかし話は、アンダートンが無実を晴らせば収まる単純なものではなく、
「世界」が軍の独裁化に置かれるかどうかの、政治的な鬩ぎ合いの話になってくるのである。

この辺のディックの話の膨らませ方は上手い。主人公アンダートンは最初、単に利己的に行動するが、巨大な「世界の真実」に気付くことにより、その行動も叙事詩中の人物のように巨大化していく。

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