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新連載の解説――阿波しらさぎ文学賞について

 このたび新たに連載エッセイを依頼したのは、第4回阿波しらさぎ文学賞受賞者のなかむらあゆみ氏である。
 阿波しらさぎ文学賞とは、徳島文学協会と徳島新聞社が主催する文学賞で、徳島をテーマにした掌編小説を全国から公募するスタイルをとっている。地方文学賞として異例な点は特にない。
 異例な点があるとすれば、この文学賞の盛り上がり方にある。応募して受賞作が決まるというだけではない。その過程がお祭りのような騒ぎを示すのである。だから応募というよりも参加といった方がいいかもしれない。阿波しらさぎ文学賞をよく知っている人たちにはいうまでもないことだが、これまで知らなかった読者のために少し記しておきたい。
 阿波しらさぎ文学賞の楽しまれ方・盛り上がり方は、とくにSNSのTwitterを舞台に、公募の締め切り前後に応募した旨のツイートが投下され、また最終候補作の決定時には歓喜のツイートとともに、落選した応募者が応募作品を公開するなどして盛り上がりを見せた。その一連の動きは、いまでもTwitterで検索をかければ強い熱量をともなって確認することができる。おそらくBFC(ブンゲイファイトクラブ)の参加者や盛り上がり方と重なるところがあり、ウェブ上の文学レースの最近の傾向だとはいえる。
 もともと私はその圏域の外にいたはずだが、その動きを知ったきっかけは、フォローしている作家の倉数茂氏がたびたびリツイートや「いいね」をするツイートに当該文学賞の話があったことにあり(BFCもそんな感じで知った)、なかでも過去の受賞者の大滝瓶太氏の連投ツイートは、単なるガイドを超えた、注視せざるをえない熱量を感じさせるものだった。 
 なかむら氏も第3回に当該文学賞の副賞にあたる徳島新聞賞を受賞している。いわば第4回は、応募者でありながら、受賞者の立場からツイートしていたことになるだろう。そして今回の受賞後の発言――賞金の使い途を文芸同人誌の制作に充当するという発言にいたる。なかむら氏は自作を発表して読んでもらう媒体を確保したいという趣旨の話をしており、それは本心だと思うけれども、徳島とその文学賞を牽引し、盛り上げるために投じられた一石のようにも感じられた。
 だから、依頼をした理由は、中央に対する地方文学の可能性だとか、女性だけの文芸同人誌に対する興味関心だとかいったところにあるのではない。この自生的な参加型文学賞の様態と、そこを拠点に活躍を見せ始めた作家をもっと知りたいと思ったからである。なかむら氏の受賞作「空気」については、すでに川村のどか氏が書評を寄稿してくださっている(https://note.com/bungakuplus/n/n89dffe720091)。
 最後に、このような後出し的高みからの分析は、おそらく、応募・参加している人たちにとって胡散臭く野暮ったいものだろうと思う。もろもろご理解いただければありがたいです。また、佐々木義登氏をはじめとする徳島文学協会の地道で継続的な支えがあってこその文学賞であることも付記しておきたい。
 下掲は、佐々木氏、選考委員の吉村萬壱氏・小山田浩子氏と受賞者三名をまじえた「阿波しらさぎ文学賞 記念文学トーク」のYouTube動画。

 それにしても、なかむら氏の文芸同人誌作りは、その志の曇りのなさといい、刊行までのスケジューリング、スピーディーさといい、『文学+』にとって見習いたい点満載である。(中沢)

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