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「悔しい」には伸び代がある(2月7日〜2月13日)

2月7日(月)晴れ

今日は朝っぱらかトイレの争奪戦が勃発し(私は生理2日目、彼はお腹を下していてドアの外で叫んでいた)、慌ただしい1日のはじまりだった。こんな出来事も、ひとつ屋根の下で人と住んでいるからこそ起きることであり、「家族っぽい」と少しの安堵感を抱いてしまう。

「家族っぽい」とは、分け合うことなのかもしれない。家賃も、ビールも、仕事の悩みも、朝のトイレさえも。社会人になってから長らく、すべて一人で決めて、自分のお金で買って…ということを続けてきた。それはとても自由で身軽で楽しかったけれど、今は不慣れな“分け合うこと”の幸せを噛み締めている。

ただ、金銭面でいえば、私たちは家賃、光熱費、大きな家具など暮らしに関わるところは折半しつつも、その他の部分は各々が自由に管理し、相手が月にいくら使っているかも分からない。少しの余白があるからこそ、分け合うことにポジティブな気持ちを持てているかもしれない。そんなことをトイレを出た後に思った。

2月8日(火)曇り

今日はいつも通り。朝は食パンとコーヒーから始まり、程よい疲労を感じるほどに仕事し、夜は彼と近所のお好み焼き屋さんで買ったお好み焼き、ねぎ焼き、和風焼きそばを食べて(例に倣って彼は買う量が多すぎる)、彼が好きなビルエヴァンスのアルバムを聴きながら1日が終わる。

できたら映画を観ようと話していたけれど、睡眠欲が勝利して、のんびりと過ごすことを選んだ。何事もない、特別な一日。

昔、『パターソン』を観て、好きな人と淡々とした日々を送りたいと夢見たけれど、現実はもしかしたら映画以上にいいものかも、と浮かれた希望を抱いて眠る。

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2月9日(水)晴れ

今日は仕事でとても不甲斐ない出来事があり、帰るやいなや彼に愚痴を吐き出してしまった。料理をしながら話を聞いてくれる彼に「大変じゃったなぁ」「がんばったなぁ」と甘い言葉をかけてもらって、思わず涙が出た。きっととても情けない姿だった。

そんなことがありながらも、夜は年下のかわいいかわいい友達が我が家に来てくれて、その時間だけは仕事のことなど隅に置いて大笑いした。年齢などまるで関係なく、尊敬する友達。「ごちそうさま」とたくさん言ってくれたけれど、こちらの方が多くのものを受け取っているなぁと思う。

すごく楽しい時間だったのに、おやすみと送り出した後は、しゅるしゅると風船が萎むように元気がなくなってしまった。いつも思うことだけれど、私は誰かに怒っているとき、大抵その状況をどうにもできない自分の非力さに怒っている(なぜか恋愛は別だけど)。今や誰も怒ってはくれない環境で、甘やかせてくれる周囲の人のやさしさを受け取りながらも、私は私で、愛を持って自分を律したい。

2月10日(木)晴れ

ひさしぶりに21時頃まで会社にいて、夜遅くまで先輩と仕事する感じ、懐かしいなと思った。この頃、私はとても不安にまみれている。少人数でお店を運営する中で、製品開発、出荷、お客様対応などとは違い、私の仕事は言ってしまえば、”いなくてもどうにかなる”役割だ。それでも私がいさせてもらっている意味は、お客さんの心を離さないためだと思っている。これからブランドが大きな変化を迎えようとしている中で、戦略はあっても、心はまっしろであらねば、邪念を追い払わねば、と改めて言い聞かせる。

夜は福岡に住む友達と電話をする約束をしていたので、急いで帰る。大切な友達のうれしい報告は、私もうれしい。「30代、ほんとに楽しい」と繰り返し口にする彼女はかっこよくて、そんな彼女だから短期間でぐっと距離が縮まり仲良くなれたのだと思う。「落ち着くってなんだろうねぇ」と話しながら、答えは出なかった。

電話の後は、愛の不時着の二人が結婚したと知り、ここ最近の鬱屈した思いが吹き飛ぶほどに悦に浸った。ずっと、ニヤニヤしていた。直接会ったこともない芸能人の結婚で、ここまで興奮できる単純な性格に、今だけは感謝したいと思った。

2月11日(金)晴れ時々曇り

昨晩の余韻が消えず、移動中は愛の不時着のオリジナルサウンドトラック、略してOSTをエンドレスで聴く。

愛の不時着に大ハマリしていた2020年春、”エンタメは誰かとの記憶を作る”といった内容のnoteを書いたけれど、音楽はすごい。甘く切ないメロディーとともに、突然のリモートワークで同期と仕事終わりに隅田公園でブランコ漕ぎながらビール飲んだ夜だとか、太陽がまぶしくて終わりが見えなかった中目黒の坂道だとか、眠れない日が続いた1Kの部屋だとか、当時の光景がまざまざと蘇った。

思いっきり苦しくて、だからこそ瞬間瞬間の記憶が鮮明に残る27歳の夏。不時着のOST効果でどっぷりと感傷に浸りながらも、当時は思いもよらなかった岡山の地で平然と車を運転している状況が、どうしようもなく平和で滑稽で笑えた。

2月12日(土)晴れ

今日は、東京から移住してきた会社の後輩がだいすきな場所に遊びに来てくれて、うれしかった。夜は、同い年の女の子たちと一緒に、サウナとお風呂に入った。女風呂は昔も今も楽しい。

岡山に来てから、“気の置けない友達”はまだまだ少ないかもしれないけれど、心から好きだと感じる人との出会いは驚くほど多く、時々この状況がうそみたいに思える。

昔、ある男友達が「尊敬する友達と一緒に居続けるために、オレもがんばる」的なことを昔話していたことを思い出す(記憶がざっくり)。友達の美貌や知性をいくら羨んでもキリがないから、思う存分に栄養にさせていただこう、と自分を励ました。

2月13日(日)雨

朝から慌ただしい1日だった。なにせ、今日は2大タスクの締め切りが迫っていた。ひとつはとある企業のステートメント提出、もうひとつはバレンタインのためのマフィン作りだ。

手作りでお菓子を作るだなんて、恋人がいるときのバレンタインと相手の誕生日と、多くて年に2回ほど(近年はそのどちらの機会すらなかったため皆無となる)。近所のスーパーに売っていると思っていた小豆は売っていなく、無塩バターも売り切れ。買い出しから前途多難だった。レシピ通り作ればなんとか様になるご飯とは違い、お菓子作りは予期せぬことが多すぎる。

室温に戻したバターはいつまでもクリーム状にならず、卵と混ぜたらダマになっていまい、初回制作はおじゃんに。2回目のトライでやっとどうにか渡せるものが完成した(2回目も、マフィンの型が大きくオーブンで回らなかったり、生地が型から溢れまくり溶岩流のようになった)。

「渡せるもの」は完成したけど、見た目にも味にも納得がいっていない。愛情を込める余裕などなかった。「あんこが好き」と長年言いながら、小豆すら買えずに、ゆであずきの扱いもままならない。「悔しい」という感情には伸びしろがあるということだから(私はEXCELの使い方がなっていなくてもまったく悔しさを感じない)、納得するまでマフィンは作ろうと思う。こんな風にして、得意料理は増えていくと信じて…。

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