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天気すら知らない日々(2022年1月11日〜16日)


1月11日(火)晴れ時々雨

宿泊療養2日目。「晴れ時々雨」と書いたけれど、一日の終わりにウェザーニュースをチェックして知ったこと。なにせ一日中カーテンも開けず、ホテルの一室に篭っていたもんだから。明日はカーテンくらいは開けようかな。

熱はなかなか下がらないし、とにかく手持ち無沙汰な毎日。今日はずっと気になっていた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を観た。映画祭の名だたる賞を獲りまくり、オバマ氏も2021年のフェイバリット映画のひとつとして名前を挙げていた作品。ヒリヒリと恐怖感を煽るシーンが多く、自分自身の不安定な状況も相まって、あまりいい心地のする作品ではなかった。ただ、今の映画界ではこういうものがよしとされるんだな、こういう描き方もあるんだなと普段観ないジャンルである分、勉強になった。

その後は抗えないほどの睡魔に襲われ、3時間強眠りこけた。そこで人生で3本の指に入るほどの悪夢を見た。絶対にベネディクトカンバーバッチおやじのせいである(演技がすばらしかった)。こんなにもおぞましい悪夢が自分の脳内で生成されていると思うと、自分が恐ろしくなる。今夜はピースフルな夢を見れますように…。

1月12日(水)晴れ時々曇り

宿泊療養3日目。今日も一日カーテンを閉じたままだったことに、一日の終わりに気がつく。よって、ウェザーニュース参考。外の世界がどんな空模様なのかということにさえ興味がなくなってしまうなんて、寂しい。今日こそは仕事に復帰したいと思っていたが、喉の激しい痛みと倦怠感が治まらず、お休みをいただくことにした。友達は3日で楽になったと話していたけれど、私はそうはいかなかったようだ。

午前中は完治を目指してひたすら寝まくることに。部屋宛に宅急便が届いたという電話で起こされる。荷物を受け取りに行くと、恋人からだった。中には、電話であったらうれしいなと話していたイヤフォンと、家に飾っている2ショットの写真と、いつものように香ばしすぎる短歌が。見慣れたシンプルな便箋に、見慣れた彼の字。

思いっきり笑ったあと、涙がぽろぽろこぼれた。早く会いたいなぁ。いつもは「おかえり」と言うことの方が多いけれど、早く「ただいま」って言いたい。喉の痛みよりも、全身の気怠さよりも、好きな人と会えないという状況がよっぽど辛いです。

1月13日(木)快晴

宿泊療養4日目。今日はどうしてもやっておきたい仕事があり、午前中はひたすら寝て、午後からテレワークをさせてもらうことにした。お昼、体を仕事モードに切り替えるためにシャワーを浴びて、パジャマから部屋着へという微妙なお着替えをして、カーテンを大袈裟に開けた。たとえ、窓の外の景色がでかでかとしたイオンモールであっても、やっぱり太陽の光が目に入るとそれだけで元気が漲る。久しぶりに「今日は気持ちのいい、晴れなんだ」と実感することができた。

午後は、仕事をしていたらあっという間に時間が経った。それでも5日ぶり(!)の仕事はどっと体力を使った気がした。早く万全な体調で戻りたい。

少なくとも、あと4日は家に帰れない。現実を受け入れたくなくて、退屈なときにいつもやる遊び、「ヨーロッパへの妄想旅」で遊んでみる。次に行くならスペイン、イタリア、いやせっかくなら行ったことのないベルギー、オーストリア、ドイツあたりがいいな。いや、彼と行くなら一緒に観た映画のいくつもの舞台になったアメリカかな?と行き先選びから真剣になってしまう。

今までは、行ってみたい場所、世界の広さに対して人生が短すぎる!と絶望に近い焦りを抱いていたけれど、今は行けなかったら行けなかったで、その分どこかで楽しい時間を過ごしているといいな、という余裕が生まれた。一人じゃない方が自由なこともある。

1月14日(金)晴れ

宿泊療養5日目。今日は朝から働く。カーテンを全開にするとやっぱり気持ちいい。働いていれば時間が経つのは早く、あっという間に夜になった。

夜は金曜ロードショーが大好きな『紅の豚』だというので、お風呂に1時間浸かり、3分前にはベッドに着席する。『紅の豚』は、女性キャラクターの魅力が爆発していると思う。冒頭に出てくるスイミングスクールの子供たちは、目に光しかなくてほっぺがポヤポヤで「子供」全開だし、17歳のフィオの「少女」らしさは眩しすぎる。フィオがいるピッコロ社で飛行艇づくりを手伝う女性たちも一人ひとりに華がある。なんといっても、アドリア海の男みんなが恋するというジーナの色気。画面から匂わせる画力と声がすごい。

第一次世界大戦後、女性の立場が今のようでは決してなかった時代のはずなのに、いつの世も女は美しい存在だったんだと思わせてくれる。今では忌み嫌われる「男らしさ」「女らしさ」とやらがこれでもかというほど素敵に描かれていて、やっぱり大好きな作品。「カッコイイとは、こういうことさ。」がすべて。

1月15日(土)晴れ

宿泊療養6日目。今日は休日なので、思いっきり寝る。12時まで寝た。この一週間ほど、お酒はもちろん、アイス、チョコレート…あらゆる嗜好品を食べていなくて口寂しい。そんなことを思っていたら、お昼ごはんのお弁当の隅っこにあいつがいた。艶艶と光る、黒豆が。黒豆は「甘いおかず」部門というニッチな世界ではトップ3に確実に入る。一粒一粒、口の中で甘味を噛みしめながら頂いた。ありがとう、黒豆。

夜に観た『ドント・ルック・アップ』という映画がブラックコメディ満載で面白かった。笑えるほど豪華なキャストで、ミーハーな私はそれだけで楽しめた。ティモシーが出ている映画はハズレなしという保証書付きのような気さえして、たくさん出てはいるけど、すごく慎重に作品を選んでいるのだろうなと思った。

最近、心の弟のような友人が、私が働く会社に入社して、お見舞いの電話をくれた。強力な戦友が仲間に加わり、とても嬉しい。その後は恋人と深夜まで電話して(どうしてこう、いつも長くなってしまうのか)、眠りに落ちる。

1月16日(日)晴れ

宿泊療養7日目。今日のHAPPY NEWSは、ふたつある。ひとつは、明日お家に帰れることが決まったこと!やったーーーー!パチパチパチ。もうひとつは、朝ごはんに、なんと…たまごサンドが出たこと!たまごサンドは普段でもご褒美のサンドウィッチ。カロリーはおいしさの証拠。ふわっふわの食パンに包まれた、卵とマヨネーズのコク。勝手に療養の終わりを祝福されているような気持ちになった。

最終日は『ユージュアル・サスペクツ』を観ておしまい。サスペンスものは映画でも小説でもあまり好んで手に取らないけれど、たまに観るとおもしろい。「信じる前に疑う」という普段サボっている頭の使い方をした。


日曜日の夜は、地上波で観たい番組が集中しているので楽しい。18時からはTBSの『世界遺産』でチンクエテッレの特集。人々が断崖に命がけで畑を築き、白ワインの産地として成長していったなんて…ますます気になる。地中海の景色は、蓋をしていた旅への渇望を簡単に溢れさせる。いつか行きたいな。

20時からは大河ドラマ。幕末以外の時代はあまり興味がなかったけれど、今回は現代口語でテンポよく進むので、半沢直樹くらいの気楽さで観ることができる。

エンタメ漬けの生活も今日でおしまい。たくさん映画を観て(日記には全てを書ききれていない)、たくさん本が読めた。本は、江國香織さんの『物語のなかとそと』と木下龍也さんの『あなたのための短歌集』がよかった。

明日からは、日常に戻る。ただの、恋しい日常に。まずはミスドでヴィタメールのチョコレートがでろんでろんにかかったドーナツを買って帰ります。

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