文鳥香(ぶんちょうこう)

 ある大店の娘が臥せって三月ほど経った。何が理由かも分からず施しの仕様も無い。医者も祈祷も全く役に立たない。

 家の者がほとほと困っていたところ、旅姿の僧が店に現れた。着ているものは随分とくたびれていてどうにもむさ苦しく、番頭は眉をしかめた。

「この家に病のものがおるであろう」

 旅の僧の言葉に番頭は驚き尋ねた。

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1,484字
収録作品「老紳士の記録、あるいは覚めない夢の話」「文吉の恋」「大奥―十姉妹のおんなたち」「文鳥香」「手乗りの地平〜荒ぶる文鳥の日々」

小説集「老紳士の記録、あるいは覚めない夢の話」のnote版です。

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