映画備忘録/2023年4月編
ゴールデンウィークも終わりますが、4月まとめいきます。
ちなみに4月ベスト3は『オオカミ狩り』『高速道路家族』『ダンジョンズ&ドラゴンズ』です。アッパー系韓国映画、ダウナー系韓国映画、アメリカのエンタメ。
※今月もわかりやすさのために星を指標としてつけていますが、わたし自身の好みが偏っているということもあり、一般的な目安として機能しているかは怪しいです。また全て愛とリスペクトに基づいています。
『わたしの幸せな結婚』
【総評:☆3.87】
ストーリー:☆3.8
演出:☆3.8
リピート:☆4
目黒連のオタクをしている身内に頼まれて舞台挨拶のチケ協力をしたものの外れた。……という程度のエピソードしかなく観るつもりは全くなかった映画ですが、白石晃士監督が褒めちぎっていたので鑑賞しました。
結果、結構おもしろい!!
私が普段まったく観ない系統の映画なのでそもそも公開日がいつであるかも把握していなかったのですが、確かに、「実写化」「ジャニーズ主演」「恋愛映画」で敬遠する人が多くいるであろうことはもったいなく感じる作品でした。
和ファンタジーということでともすれば安っぽく違和感に満ちた映像になりかねないところ、セットやロケ地にもさして違和感がなく、画面作りも脚本も全体的な流れもスムーズで、特筆すべき「良くない点」が思い浮かばない。強いて言えば目黒連の銀髪はいまいちだな……くらいのもの。
色々揶揄されることも多い「邦画の実写化」ですが、本作は無理なく実写化した好例のひとつなんじゃないでしょうか。
また個人的に高石あかりちゃんが好きなので、どれだけテンプレ悪役令嬢ムーヴをかましても「かわちいねえ」という感情で満ちてしまうのでヘイトの溜まる隙がなかった。
異能力バトル的な要素をもう少し押し出してアクションをがっつり構成した形でも観てみたかったですが、さすがにそれは贅沢かな。できればアクションについてはもう一声あればよりリアリティのある出来になったのかな?とは思います。
でも普通に面白かった。
『エスター ファースト・キル』
【総評:☆4.1】
ストーリー:☆4
演出:☆4.3
リピート:☆4
あの名作スリラーの続編を手堅くまとめた秀作。
全然ファーストではないやんけ!!!!ファーストではなく「ゼロ」「前日譚」「無印」という感じ。ただよくここまで期待値の上がってるなか頑張ってくれたな、と素直に思う。
あの名作の続編という鬼爆上げハードルの中でここまでソツなく作れたのは非常にすごいと思う。単純に技量がある。
すでにエスターのからくりを知っている観客にどうスリラーとしての快楽を与えるかはとても難しいと思うが、うまいこと乗り切っていた。シンプルだが脚本が良い!!
さすがに前作のほうが衝撃度が勝ってしまうの勝てっこないのだが、それでもここまで手堅くまとめたのは十分に賞賛に値すると思う。特殊メイクにより再度現れたエスター、やはり不気味だ。
そしてカスとカスの対決はどう転んでも全然良心が痛まないので最高。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』
【総評:☆4.3】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4.3
リピート:☆4.8
め~~~~~ちゃめちゃ面白い!!これぞ「娯楽映画」!!
これはブロッコリーポスターでも許される希有な例。
アクションも世界観もCGもギャグも何もかもが「娯楽」という1つの目的のためだけに作られているから、ともすればとっちらかってとんでもない惨事を招きそうな作りになっているのにきちんとまとまりを感じて面白い。いい映画。シンプルにいい映画。
コメディ要素が強いけど、個人的には、最近同じくらいコメディテイストを取り入れていて予算がかかっていた大作「エブリシング~」よりもこちらのようがギャグの種類は好きだった。エブリシング~は結構アメリカのギャグという雰囲気が強くて苦手なひとは苦手かと思うが、本作のギャグは万国共通の精神年齢の低さがあって普遍的に面白いような気がする。
『映画刀剣乱舞 黎明』
【総評:☆2】
ストーリー:☆2.5
演出:☆2.5
リピート:☆1
まあ、ふつうにつまんなかったです。
『刀剣乱舞 黎明』を観てしまった(2023/4/4の日記)|BUN太|note
『ダークグラス』
【総評:☆3.77】
ストーリー:☆3.5
演出:☆4
リピート:☆3.8
良くも悪くも「ダリオ・アルジェントの映画」。
本作は「ダリオ・アルジェントの新作としては大正解」で、「ダリオ・アルジェントじゃないひとの作品として提示されてたら酷評」という仕上がりになっている。本作はあくまで「ダリオ・アルジェントの10年ぶりの新作」だからこれでいいしこれが観たいけど、そもそも鑑賞者に「これはダリオ・アルジェントの映画である」と「ジャッロとはどういうジャンルか」の大前提が無いと酷評になることも十分にありえる。(こう言うと選民的で排他的に聞えるのであまり使いたくない言い回しではあるが)
というのも、およそ2022年製作の映画とは思えないテロテロテロテロ……デデデデデデデデ……というBGMに古臭いカット割り、脚本、特殊メイク。リアリティなどなく、見世物的な嗜好が押し出され、しかしかといって2022年基準の特殊メイクやCGを駆使した迫力あるゴアを見せてくるわけでもない。2022年のカメラ・映像技術で撮影されているというだけで、中身は『サスペリア』だ。非常に陳腐で、古くさく、使い古された、一昔も二昔も前の映像が続くのだ。垢抜け洗練されてなどいない。しかし、ダリオ・アルジェントの新作としては全てがこれで正解。ここまでの言葉はこの作品に限っては褒め言葉として使用しています。
俯瞰して観たときも、ジャッロ系スリラーとしてはおもしろい!しかしやはり現代的なただのスリラー、ただのスラッシャーだと思って鑑賞してしまうとかなり酷評されると思う。
(以下ネタバレ)
味方陣営のかわいくて賢い犬に殺人鬼食わせるシーン、ジャンル映画界隈でも2023年なら普通はやらない(しかもあの感じの特殊メイクで)と思う。
いまのトレンドならば、女性で性産業に従事していて盲目という主人公が用意されているなら絶対に殺人鬼に反逆して勝つはず。『ドント・ブリーズ』だけでなく盲者の出てくるスリラーでは必ずといっていいほど照明を全て落として視覚健常者を盲者のフィールドに引きずり込む技法が用いられる。本作でも、賢くて可愛い盲導犬を良い感じに使って良い感じにアシストしてもらって、中国系少年チンも良い感じに役に立って、女で盲者の主人公がムキムキで白人のイカれた殺人男に勝つ……そのほうが今の流行に乗っているしカタルシスもある。でもそれはやらない。主人公も中国系少年チンもただただ無力で弱いだけ。
本作には何もカタルシスなんて無い。イタリアンホラー。ジャッロ。これは、そういうジャンルだから。
『世界の終わりから』
【総評:☆3.87】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4
リピート:☆3.8
現実に即したヒューマンドラマであり、終末譚のSFであり、夢と歴史を辿るファンタジーでもある。おもしろい!
「世界の終わりを女子高生が阻止する」という万人には全然共感できない題材から、誰しも当てはまるヒューマンドラマじみたストーリーに仕上がり、ぐっと泣かされるシーンもある。
CGの違和感と、風呂敷を広げすぎたゆえの最後の尻すぼみ感はいまいち否めないが(世界の終末という大きな題材の解決策がいち人間の対話であるという時点でそこに説得力や「風呂敷ちゃんとたためたよ」感を醸すのはかなり難しいので仕方ないとも思う)、それでもなお、観て良かった映画と言える。
テーマはアニメ的であるが実写映画だからこそなせる演出、役者の表現。通常であればこのストーリーでは実写よりアニメーションを選択したくなるし、予算的にもアニメーションのほうがより壮大でより突飛なことを実現することができる。が、本作は実写であるからこそなしえた「生々しさ」があり、役者のキャスティングも良い。『さがす』のときそうだったが、伊東蒼の、弱々しくおぼこい雰囲気なのに妙に迫力がある、訴えかけてくるような目の演技がたまらない。
あと、これは批判になるが、それにしてもインターネット解像度が低すぎる。人間の愚かさを示したいならリアリズムは大事だし、この映画に限った話ではなく、基本的に映画におけるネット描写は監督ら製作陣の年齢層(少なくともデジタルネイティブではない)のせいか解像度すごく低くて、わたしが中学生のときの2ちゃんのノリなんだよな。ネット監修いれてほしい。『神は見返りを求める』のYouTube監修みたいに。
(以下ネタバレ)
さすがに両親の選択はエゴ過ぎる。娘が自分たちの死後どれだけ苦労するのか、両親の想像していたもの以上だったとは思うけれど、それにしても画オだよなあ。私はそもそも人間を生むこと自体エゴだと思ってるからそのエゴを自覚すべきだと思ってる(出産を否定しているわけではないから反出生主義とはちょっと違う)のでよりそこに引っかかってしまった。作中で両親がエゴを自覚しているような感じはふんわりあったからまあいいけど、できたらもう少し描写が欲しかったかも。ここはあくまで個人の主観にかなり依ると思う。
で、ちゃんと世界が滅ぶ終末譚だいすき!!わーい!!世界はちゃんと滅びよう!!本作、「ちゃんと滅亡」ポイントでの加点がある。なんだかんだ実は世界に希望ありました~系はなんかモヤモヤするけど、改変された世界で希望が生成されるのは個人的にはアリ。
あと江崎さんかわいいね。ハナちゃんに抱きつかれて戸惑ってるあたりとか、仕事はできるしソツなくこなせるけどいち個人としては不器用そうなところとか、世界が滅びなかった世界線で江崎さんとハナちゃんの絡みをもっと観ていたかった。
『オオカミ狩り』
【総評:☆4.4】
ストーリー:☆4
演出:☆4.5
リピート:☆4.7
すでに確固たるクオリティと濃厚さを確立している韓国バイオレンス映画、さらに殻を破りまくる!観たらガンギマってハイになる!たすけて!
私はこの日『ダークグラス』『世界の終わりから』『オオカミ狩り』『ベニーラブズユー』の4本ハシゴをしていたので、「おっ全部人が結構死にそうだな~~トータルで何人殺されるかキルカウントするか♪」と呑気に構えていたのだが、さすがにオオカミ狩りでキルカウンターがぶっこわれてしまった。死にすぎ。尺のことを考えてキャラを殺し惜しむ……なんてことはない。足りなければ死要員を追加しまくればいい。さらに回想シーンで死要員追加でキルを稼ぐ。斬新で野心的。古今東西のバイオレンス映画、このシステムを取り入れてくれ。すばらしい!特許とったほうがいい!!
韓国映画って1キルで3キルくらいの濃さあるしなあ~~と思っていたけど、オオカミ狩りは1キルで10キルくらいの濃さがあった。
バイオレンスノワール越えてこれはゴア。これは、ゴア!
2022年最高のお祭り大殺戮ゴア映画『哭悲』ですらちょっとは殺し惜しみしたよ!?になる。哭悲はさすがに主人公カップルおよびメインの登場人物は生き延びさせていたけれど、オオカミ狩りにそんな配慮、無い。全員死んだらまた足せば良いし。
ゴアは哭悲、ノリはバイオハザード、圧は13日の金曜日、殺し方はライチ光クラブ。きたない「そして誰もいなくなった」と言うか。観れば伝わると思う。
この映画に果たして血糊はどれだけ使われたんだ?と思っていたら、フォロワーいわく2.5トンとのこと。もはや量がよくわからんな。
ここまで散々いかに型破りなバイオレンスゴア韓国映画であるか言ってきたが、しかしやはりたしかに「韓国映画」なのだ。ゴアを伴わない、バイオレンスノワールの色の強い殴り合いのアクションの洗練された泥臭さ、まさに韓国ノワールのうつくしさに他ならない。韓国映画はバイオレンスアクションを主軸にしていない映画でもそのアクションシーンのクオリティの高さに毎度度肝を抜かれてしまうが、本作でも「その3秒にそんなかっけー動き詰め込めるんだ!!??」と嬉しくなってしまった。
本当に韓国バイオレンス、だいすき…………。
ちなみに映画館で隣に座っていたおじさん、死体が出てくるの確定してるシーンの前は「フーッ……」って身構えてて、なんだか叙情的で良いなと思ってしまった。私はたくさん死んでたくさんゴアいことが起きると嬉しくてニコニコしてしまうので(変なイキりとかではないです)、どれだけ我慢して抑えていても盛り上がる殺戮シーンはお祭りのようでつい笑った声が漏れてしまうこともあったのだが、上映終了後に隣のおじさんが連れに「隣の女の人すごい楽しそうやったね」と語りかけていたのが聞えてきて、それもまた映
画体験だな……と感慨に浸ったりもした。
あと、これは散々言っていることだが、欧米のトンチキジャパニーズ描写に慣れていると韓国の日本描写は相変わらず解像度高いな~と毎度思ってしまう。韓国人俳優が日本人を演じたときの発音については、これはもう仕方ないし、たいていは発音以外はきちんとしていることが多い。本作でも「殺す」を「ばらす」と言っているのは頑張っているなと思った。最近だと『ハンサン』の日本解像度は(そもそものテーマにおいて日本描写のリアリティが必要不可欠でもあるが)非常に高くてそれだけで満足がいったし。
(以下ネタバレ?)
旧日本軍がジャンル映画におけるナチスの立ち位置で笑う。ジャンル映画三種の神器、サメ、ゾンビ、ナチス。
まじめな話、韓国映画の良さ……そのクオリティはハングリー精神に由来するものであると私は思っているし、そしてそのハングリー精神の源には日本との歴史があるのは事実だから、(本作ではまだ笑える扱いではあるものの)各作品で日本との歴史を随所随所で取り扱っているようにその気持ちはそのまま忘れずいてほしい。日本人としては複雑だけど、祖先のしたことは今の私たちが変えることもできないし、歴史的に屈辱や恥辱があったという自己認識からのハングリー精神と韓国映画というのはどうしても切り離せないものであると思う。
なんにせよ今からパンフレット読みます。オオカミ狩り、サイコ~~~
『ベニー・ラブズ・ユー』
【総評:☆3.7】
ストーリー:☆3.5
演出:☆3.8
リピート:☆3.8
ハンドメイド感溢れるB級人形スラッシャーホラー。
未体験ゾーン記念すべき一発目、佐々木監督も身内もツイッターの人も口をそろえて褒めちぎっていた本作。
あえて漂わせるB級の演出が、監督。脚本・主演をすべて担ったというハンドメイドな本作において、B級への愛を感じるしその愛ゆえにファニーに笑える。ランタイム94分のわりに若干の中だるみは否めないが、そのおかげかキルスコアはどんどん伸びていく。エルモみたいな見た目のホラー人形ベニーがなんといってもかわいい!ベニーの声まねをしたくなる。
本作では36歳実家暮らしの冴えない子供部屋おじさんが主人公。典型的負け犬(ルーザー)。でもなんか美女に好意を向けられたりする。このテンプレB級がたまらない。ベニーがやってきたからといって、特にそこまでサクセスしないのも良い。
そしてB級名物のやたら察しが悪くて無能で怠惰な警察官。やっぱB級の警察官は無能でお茶目じゃないとだめだよな。
『ノック 終末の訪問者』
【総評:☆4.03】
ストーリー:☆4
演出:☆3.8
リピート:☆4.3
「変な映画」これがシャマラン!
シャマラン監督、今では世界的に評価をされている著名な監督であり、最近は比較的に正統派な「変な映画」を撮っていた気がするが、今回はかなり「不条理」。この不条理さというのが近年公開された『OLD』も目ではなく、あるとき突然無作為に選ばれてしまった家族が家族の死か世界の終末かの選択を迫られてしまうという突拍子のなさ。その選択を迫る男女4人もまた何の繋がりもなく無作為に選ばれてしまった他人たち。
この映画をつまらないという人もいるが気持ちは分かる。非常に「ただただ変」だからだ。その「変」はニアリーイコールSFの快楽というわけでもなく、特に理由もネタもなく、唐突に始まる不条理な世界観で、種明かしなどない。ただそこに不条理があるだけ。それがたまらないでも非常にテクニカルで面白い。たとえ付け焼き刃の素人が不条理な「変な映画」を作ってもここまでいびつにアンバランスにうまく調和することはない。この絶妙なバランスでギリッギリでエンタメとして成りたつ感じがシャマラン監督の良さであり、他に類を見ない監督であるゆえんだとも思う。マジでギリギリ面白い。
また作中で主人公たちが「何か仕掛けがあるのではないか?」と疑い合う流れがスリラーとしても気持ちよく、見ているこちらも「実はこれはロジカルなギミックが存在しているのでは……?」と思えてくるが、やはりそれを超越する「理由のない不条理さ」が覆いかぶさってきて、結局のところ変な映画として帰結する。
強いてもやりとした点をひとつ挙げるならば、いまいち世界滅亡感が足りなかったのが残念。アフリカやアジアでのパニックももっと映してよかったのでは?と思う。
「あんまりだなあ」と言う人の中には「ポリコレがキツイ」と言う人も多かったが、それについても別の日記に。
https://note.com/bunbun9922/n/n85e2080b6353
『見知らぬ隣人』
【総評:☆3.7】
ストーリー:☆3.8
演出:☆3.8
リピート:☆3.5
目覚めたら部屋に死体があった。韓国ワンシチュエーションスリラー喜劇。
まあまあおもろい。
「喜劇」というのは誤記ではない。部屋の真ん中に謎の死体が転がっているワンシチュエーションから想像されるSAWのような重たいスリラー展開はなく、この設定で韓国映画でなるほどこの程度コミカルに描いてしまうのか!という新鮮さがある。コメディではなくあくまでスリラーではあるが、とっちらかりまくるドタバタ展開にコミカルな演出が結構フィットしており、ラストも含めてブラックに笑える。まあまあおもろい。
『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』
【総評:☆3.27】
ストーリー:☆3
演出:☆3.5
リピート:☆3.3
来たぞ!!国産B級サメ映画!!!!
B級好き日本人なら観なきゃいけない映画だから観た。日本人の作るB級トンチキジャパニーズからしか摂取できない栄養素がやはりある。時代考証やそもそものもっともらしさなどクソくらえと言わんばかりのB級展開で非常に元気が出る。エクストリームが配給であることにこれほど「ですよねw」になる映画もなかなかない。
B級でいくらトンチキやっていてもそもそもの流れがぐだぐだしているからつまらなくなっている映画も多々あるが、本作はわりとさくさく進むからそんなにストレスはない。B級耐性がある人はそこそこ楽しい(よくあるB級サメ映画のいろんなパターンの踏襲だから楽しみ方がわかりやすい)が、俳優ファンがどう思うかはあまり保証できない。
『キラーカブトガニ』のようなB級としてストレートに正解100点をたたき出してくる傑作とはさすがに肩を並べることはできないが、終盤はお祭り騒ぎでちょっと楽しい。ニンジャvsシャークというよりニンジャ&シャークだけど……。まあ良くも悪くも「今までのB級サメの踏襲」ではあるが、国産でこういう映画が出て来たこと自体を評価したいなと思う自分がいる。上から目線のようだが、やはり日本でもB級が十分に作られる土壌(それほどまでに映画自体のマーケットが大きくなり制作における豊饒な土地があるということ)が育まれていけばいいなと思っている。
そしてこれは褒めポイントだが、ちゃちくても自分でサメCG作ってるだけえらい!B級サメ映画は資料映像でしかサメを出さないことも多々あるので。
【以下ネタバレ】
女忍のダルマ、サメ化した教祖の顔の造形、惜しみない血飛沫、臓物と体液などの作り方から、監督がいちばんやりたいのは悪趣味でスプラッターなゴアいモンスター映画なのかなと思った。サメ要素よりモンスター要素のほうが、力が入ってる。女忍と人妻のキスもそうだけど、監督が本当にいちばんやりたい映画はちょっと違うんだろうなと思った。
・こたろうが人妻をレイプした意味皆無では!?ギャラ払わないから旦那を殺しただけでも脚本的に問題なくない!?え!?あの要素あるせいでこたろうに感情移入できなくてめちゃくちゃ邪魔なんやが……
『ミッドナイト・マーダー・ライブ』
【総評:☆3.93】
ストーリー:☆4
演出:☆3.8
リピート:☆4
おもれ!!!!!
ラジオDJがやばいリスナーと通話を繋いでしまい、正体がわからない声だけの主に翻弄され事態はとんでもないことに……というシチュエーションは非常にスリラー的でありながら、同じように想起される傑作『ギルティ』のような快楽を求めると見事にいいように操られてしまい、そうきたか!と笑ってしまう。非常に“楽しい”映画。
本作に蔓延する空気感がブラックなユーモアで、そのブラックなユーモアが実在する殺意に乗っ取られてひりひりする展開がつづき、やがて『世にも奇妙な~』を思い出すようなラストにひた走っていく。あの演出の不気味さ、なかなかに上手くてたまらん。
また本作の設定として。ラジオという旧時代の装置(作中でも聴取率の低迷が問題として挙げられている)を使っているからこそ「今」を描いたこの映画は非常に映えるつくりになっている。ネット社会になってから「殺人を生配信」系のスリラーはそれはもう雨後の筍のように乱立し続けてきたわけだが、少なくとも本作において、YouTubeやSNSが舞台だったらこの気持ちよさはなかったと思う。
『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 運命』
【総評:☆3.6】
ストーリー:☆3.5
演出:☆3.8
リピート:☆3.5
人付き合いの一環として鑑賞したため、原作もこれまでの映画も一切読んだり観たりしたことがなく、おぼろげな「ヤンキーが未来を変えるためタイムスリップする」くらいの知識しかないまま観たが、そのわりには結構楽しめた。最初にあらすじが紹介されるので私のように初見のひとでも少なくとも鑑賞自体に差支えはない。
実写映画のなかでは比較的「現実に落とし込んだときの違和感」が少ないように思うが、(原作も読んだことがない超部外者の率直な意見としては)良くも悪くも「実写化」で、わざわざ生身の人間が映画という媒体で演じる意味があるのかはあまり分からなかった。
ヤンキーものと聞いていたので喧嘩シーンなどもっとバイオレンスが観られるかと思っていたのでそれはちょっと残念。でもまあふつうに楽しめた。
展開は気になるので続編も観に行きます。
『ハロウィン THE END』
【総評:☆4.03】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4
リピート:☆4.3
こんなに街も人も殺人鬼も疲れ切った映画はあっただろうか。
キルではなくスーサイドの蔓延した映画。これがホラーアイコンとして人々を恐怖に陥れたブギーマンの終焉なのだ。
私は好きな映画なんだよ……世間はいまいちみたいだけど……。
『ベネシアフレニア』
【総評:☆3.37】
ストーリー:☆3.3
演出:☆3.5
リピート:☆3.3
2023年にイタリアンホラー、ジャッロ映画にオマージュを捧げているような映画が観られたのは嬉しい。
若干ダリオみのある前衛的なOPはかっこいい!またナンセンスなスリラー映画としても悪くない。ただ設定的にもし『パージ』になればもっと嬉しかった。『パージ』というより因習村だと友人が表現していたふが、確かに排他的な現地民やその行動のもとにある思想信条が、うつくしいベネチアで行われているというだけで本質的には山奥の閉鎖的な村のようである。もちろんオーバーツーリズムの問題は非常に大きくそこにあるのだが、日本でも京都は財政難の問題も含めてこういうホラーの舞台にできそうだなと思った。
「ダルいノリのパリピ大学生が殺人鬼に惨殺される」系の映画は様式美で、それを近年の観光地の社会問題(ここではオーバーツーリズム)に転用した形式。ドイツあたりの監督が京都を舞台に最終的にパージみたいになるトンチキジャパニーズ映画撮ってくれないかな。
最終的になんでもパージになれば嬉しい。
『VIRUS ウィルス:32』
【総評:☆3.6】
ストーリー:☆3.5
演出:☆3.8
リピート:☆3.5
走るタイプのゾンビ映画(仮)。
ここで(仮)と表現したのは、本作では特にそれがゾンビである必要性を感じなかったからだ。特にゾンビパンデミックの背景も理由も明かされず、閉ざされた施設からのエスケープを目指す舞台としてゾンビが設定されている。論理的説明を求める人には向かないだろうがゾンビ映画の上澄みエッセンスを手軽に摂取したいときには良い。私は「B級映画の三種の神器、ゾンビ、サメ、ナチス」と言っているが、(本作が少なくとも現地でB級の扱いを受けているかはさておき)ゾンビというのは非常にお手軽に危機感を煽れてしかも観客に説明も要らず物語を展開できる便利な道具であると再認識した。
冒頭の「日常があるとき突然壊れて日常と非日常が入り交じっている感じ」を「走る」を通して空撮で描くのはなかなかイケてる。個人的には走るゾンビは好きではないのだが、本作では直接的な追いかけっこシーンが特になく、ゾンビが走っても走らなくてもどちらでも大差ない演出になったと思うので、走るゾンビが嫌いなひとでも受け入れられると思う。
最低限の登場人物もなかなか良く、ギミックとしてだけ存在するゾンビを無意味だと感じる人も少なくないだろうが私は結構好き。
また、途中から出てくる「出産を控えた妻のいる夫」のキャラクターとしての描き方だが、今までのゾンビ映画なら起こりえた事態が起こらず、また起こりえたヘイトも起きず、良い匙加減で非常に現代的な描き方をされていたと思う。最近、こういうジャンル映画的なものほど、むしろ逆に現代的なバランス感覚が目立つなと思う。
そしてこれはめちゃくちゃ関係ないが、最後まで施設内マップが把握できず、ガッチマンならすぐに把握するんだろうな……などと考えていた。
(以下ネタバレあり)
最悪な気分になるのが好きだから、妊婦からひりだされた赤子がゾンビの群れに好き放題されたら嬉しかった
『高速道路家族』
【総評:☆4.43】
ストーリー:☆4.3
演出:☆4.5
リピート:☆4.5
おもろ!!韓国映画は不穏と厭でなんぼ!
予告編から得た「おもしろそう」に見合う同程度の「おもしろい」が提供されるのは決して当たり前ではない。韓国映画、いつもありがとう………………。ちなみに予告やあらすじで主人公一家の対になる家族が「裕福な家族」と表現されているが、別に一般的な中流家庭だと思うので、物語としては全然パラサイトではない。万引き家族的ではある。
本作の良いところとして、まず、人物描写の解像度が高い。白黒割り切れない人間臭さがいやらしくなく描かれていて、正反対の主張をする2人どちらにも同じくらい「わかるなあ……」という気持ちになる。人間性の描写のバランスは非常に重要で、ここをしくじるといくら脚本が上手くても空虚な映画に仕上がってしまうと思うのだが、若干駆け足なところは否めないものの人間の描き方が良い映画だった。そして後半から加速的に不穏になるのが最高。
そしてこれはある程度極端な例ではあるが、貧困のスパイラルはこうして起こるんだなと生々しく感じられた。上は上で回り、下は下で回る。韓国でもソウルの一点集中状態や学歴社会に伴う就活での格差社会(財閥系に入れるかどうかではっきり格差が決まるなど)、土地バブルとその崩壊の兆し、色々と非常に現代的な問題が多く浮彫になって取りざたされることが昨今多いように思うので、そういった韓国の状況のなかでこの映画の高速道路家族の存在は決して「フィクション」ではないのだろうなと感じられた。
あと単純な感想。
パパかわいい パパだいすき
『ヒトラーの死体を奪え!』
【総評:☆2.67】
ストーリー:☆3
演出:☆2
リピート:☆3
そんなに「ヒトラーの死体を奪え!」ではない。
冒頭がわりとよかった。冒頭が盛り上がりのクライマックスかもしれない。ここで「おっ」と物語に引き込まれそうになっただけに、そのあとの本編で「あー……」と肩透かしを食らってしまった印象。
物語を作るための舞台装置としてヒトラーの死体があるだけで、ドンパチできたらオッケーな映画だからヒトラーの死体がそこにある必然性は無いしそもそもWWⅡの話である必然性もない。森の中でやべーやつらに襲われる設定ならそれでオッケー。「理由付け」も弱いからいまいちすべてに必然性が無い。
英米製作なんちゃって戦争映画の良くないところが出ていた。ロシア人やドイツ人に英語で会話をさせるな…………なんとなく容貌もロシア人っぽさ/ドイツ人っぽさが無くて、すべてが「なんちゃって」感がある。逆にこの邦題のおかげでB級映画として観に行けるから、ある意味理にかなった邦題の付け方をしている。
色々言ったが、ヒトラーの死体の造形とか爆弾でぐちゃぐちゃになった顔とかの造形はかなり良い。これをメインに据えて欲しかった!!ゴア映画にしろ、ゴア映画に!
4月も終了しましたね。お疲れ様でした。
また来月。
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