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ざつぼくりん 2 「雑木林Ⅱ」

この庭がまた野性的だ。ランダムに植えられた植木が野放図に育っている。さながら極小自然園といったふうだ。

この目で見なくても信じられることはある。今は見えないけれど、地の上、地の底、天井や影の中、薄闇にまぎれて生きるものは確かにいる。

彼らはほんとにいじらしいくらい健気に生きている。時折そうとはわからぬように彼らのサインが届く。そんないうにいわれぬとしかいいようのない不思議が漂うこの店もこの庭も、絹子のお気に入りである。

群れて生える竹は丈高く伸び、ヤッホーと語尾上がりの掛け声を発しながら風に大きく靡いている。

たけのこは傍若無人、掟破りに場所を選ばず生えてくる。実のなる季節に枇杷の木はたわわに実をつけ挑発するかのごとくニヤリとして、欲しいかい、とたずねてくる。そのそばでグミも可愛く誘っている。

ドクダミは白い花びらの中の黄色いとんがりを自慢げな鼻のように伸ばし、下草陣取り合戦の勝者の顔つきをしている。こいつには根性がある。おいおい、ユキノシタ、のほほんとしてないで、君もがんばれ、とはっぱをかけたくなる。

つくばいのそばには亀の陶器の置物がてんでの向きに並んでいる。大小、都合八匹いる。絹子はどうもその色とりどりの亀たちが、時々人の目を盗んでひょろっと動くような気がしてならない。ひとが通り過ぎたら、ぺろりと舌を出しているんじゃないか、とも思っている。

カンさんは今はここに一人住み店を構えているが、元は坊さんだったとか学者さんだったとか噂されている。

どこで仕入れてくるのか、やれバツイチだの未婚の父だのという風評もある。

金持ちの息子が身を持ち崩したの、商売女と駆け落ちしたのと、無責任に仕立て上げられたおはなしは、どれも上手くいかない人生をなぞっている。

カンさんの全身から漂うけだるさのようなもの、あるいはここにいてここにいないひとのような、どうにも頼りない存在感がそんな物語を呼ぶのかもしれないが、本人はなにを聞かれても、いつもつるりと頭を撫でて、さてねというばかりなので、ほんとのところは誰もしらない。


読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️