ひきこみ運河にでてくる老犬のスケッチ。
小説を書くために、地道な努力してたんやな、とおもう。
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いつもの散歩道の河岸に老人が座っていた。かたわらには老犬がいた。
日が傾き、引き込み運河に漣がたちはじめると気温が下がってきた。大きなマスクをした老人は立ち上がり、犬を抱えて歩き出した。
抱えたまま河岸へ繋がる階段を降り、平坦な道で犬を立たせた。そしてリードをはずし、犬の先を歩き始めた。
支えを失った犬はその瞬間ふらつく。足がこわばっているのか前に進まない。
犬はこまったようにゆっくりとあたりを見回し、道のにおいを嗅ぐ。じゅうぶん間合いをはかったあと、試すように一歩を踏み出した。
やっと歩き方を思い出したかのように歩を進めるが、どうも4本の足の運びがぎこちない。どこか傷んでいるのか、年のせいで筋肉が衰えているのか、とくに後ろ足は引きずるようにして歩く。
そして、1メートルも歩かないうちに止まってしまう。
飼い主が気づいて振り返る。犬はぎこちなく小用をし始める。たらたらと時間をかけて流れる。飼い主は待つ。終わったことを見届けて飼い主は先を行く。
ところが犬はまた歩き出せない。何度も右を見たり左を見たり、地面のにおいを嗅いだりする。
また飼い主が気づいて戻ってくる。動かない犬を黙って見下ろす。もう二度と駆けることなどないだろう犬を見つめる。
マスクの下でどんな言葉を口にしたのかはわからないが飼い主が犬に話しかけているのがわかる。「どうした」とでも言っているのだろうか。犬がゆっくりと飼い主を見上げる。
飼い主はまた歩きだす。今度は振り返らずにどんどん先を行く。
しばらく逡巡するように立ちどまったままだった犬も、うつむいて首を左右に振りながら、ようやく歩き始める。
足元はやっぱりおぼつかない。やっぱり立ち止まってしまう。
犬が顔を上げると飼い主は角を回ってしまっていてその姿が見えなくなっていた。
犬は不安げにきょろきょろをあたりを探す。何度も首を振って探す。犬にとっては長く感じられるであろう時間が流れる。
角から飼い主が戻ってきた。ふわりと犬の尻尾が揺れる。飼い主は首輪にリードをつけて犬を引いた。ゆっくり犬は歩き出した。
読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️