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スケッチ1

花金夜10時のJR。男が二人腰かけている。

ともに背広姿に短髪。若い方の男のネクタイや膝の上に置いている鞄があたらしい。ああ、新卒か。

隣の男は年上といっても30歳前後、左手薬指にリングが光っている。かつてはなにかのスポーツでグラウンドを駆けていたような爽やかさがその表情に見える。

今日は歓迎会でもあったのか、先輩の顔が赤い。少々くたびれた鞄を足元において足を組みリラックスしている。

その日の酒の席のでの人物の品定めがひとしきりすんだあと、先輩が言う。

「まあ、身だしなみと挨拶が大事なんだよ。あとはその場その場でおぼえていくからさ」
「はい」

「ヒゲは何で剃ってんの。電気?」
「いえ、手で」
「顎のしたとか剃り残しに気をつけな」
「はい」

「それにしてもお酒強いね。おやじさんとかとよく飲むの?」
「あ、うちは母子家庭なんで、母親とは時々飲みますが、家族では僕が一番強いですね」
「あ。悪いこと聞いちゃったね。ごめんな」
「あ、いえ小学校のときからいませんから」

色白で小顔の後輩に屈託はない。

先輩はほっとしたように顔をつるりと撫で、「僕は結構よわくてね」と話し始める。
後輩はにこにことその話を聞いている。

読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️