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先生たち 5 小田教授

心理学の小田教授はちょっと芸術家のような風貌だったが、喉頭がんを患い、かろうじて出る低くかすれた声で講義をした。聞くほうが苦しくなるようなときもあったが、心理学の講義には学生が満ちていた。

時折関西系列のテレビに出演していたので、休講が多かった。ハンサムな風貌とならんでそれも人気の理由だった。

小学校のころ、小田の小さいという字がイヤだったという。大田や中田に比べて貧相な苗字だと思っていた。

担任の女の先生にそれを言うと、小さいという字には、美しいとか大事なとかいう意味があるのだと教わった。その先生は綺麗なひとで小夜という名前だった。小田でいいと思った。

あるとき教授はその声で「僕の息子は愚とかいて『おろか』とよみます」と言った。

それを聞いた19歳の女子大生は、なんということを!とその息子さんの行く末を案じたことだった。

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愚かであると自覚するには時間がかかる。哲学や宗教を学んだあとなら、人間というものの愚かさを知ることができる。そうとしか生きられない哀しさも知る。

親の願いの遠く大きなことよ、改めて思う。

読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️