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読売ホール

柳家小三治さんの「天災」を生で聴いた。小三治さんにお会いするのははじめてだった。

落語家さんにはそれぞれ味がある。これまでライブで聴いた志の輔さんも昇太さんも小遊三さんも歌丸さんも円歌さんも、それぞれに噺の登場人物の造形がなされていた。


むろん落語に登場する面々はどのひとも個性的で愛すべきひとたちなのだがそれでもおのおの噺家自身のキャラも加味されてまことに味わい深いし、興味深い。

あたしには小三治さんの江戸っ子はなんだかかわいくてしかたがない。

いや、この噺の主人公は「こちとら江戸っ子で職人で威勢がいいんでぇ」が口癖のこまったわからんちんの八五郎なのだが、それでもその短気ものがひょいっと見せる表情がなんともかわいい。(単にあたし好みというだけだが)

はなしの呼吸のあんばいがいい。古典を丁寧に演じて、場内が大いに沸く。ギャクに頼らない笑いは色あせない。

ぽんぽんと小気味のよいリズムのなかに、間があって、その間がおかしい。それで次はどう演じてくれるのかと期待しているところへずぼっと大きな波がきて、みな快く身をよじりながら笑いにおぼれる。

以前に「ま・く・ら」というこのひとのエッセイ集を読んだことがある。

枕を集めてることとかアメリカ留学のこととか、どれも抱腹絶倒だったというくらいの記憶がある。が、いつものように、ものすごくよくは覚えていない。

でも、小三治さんがバイクのために借りた駐車場にすみついてしまったホームレスの吉田(井上だったかな?)さんのことは妙に鮮明だったりする。

洗濯物とか干してしまうものだから追い出そうとして、話すうちに「しょうがねなあ」と言いながら情が移って仲良くなってしまう。観察力とフラットな視線が生きていて、やはりおもしろい話に仕立てるのがうまい。

「死ぬなら今」という落語があるが、桂枝雀さんの追善式で小三治さんは「うまいことやりやがったよ、こいつ。いい時に死にやがったよ。誰でもここで死にてぇよ。」と言ったそうだ。生前一度だけ「お互い60で死のうな。」と言っていたのだという。江戸っ子の言葉だ。

小三治さんを検索するとこんな言葉が出てくる。

「厳格な教育者の家庭に育ち、周囲の反対を押し切って噺家となる。
天性の素質と師匠の小さん仕込みの確かな芸、
一見無愛想にも見える独特の風貌で語られる噺は、
飄々とした可笑しみのある小三治ならではの味がある」

振り切れてるひとなんだあ、と改めて思う。

まったくもって人生にはいろいろある。

あたしのはなんでこう大変なんだろうと思う日がある。ガードが甘くて、まともに言葉のパンチを食らって、脳震盪を起こしそうな日もある。くそーと思い、なんでそんなことをいわれにゃあならんのか、となさけなさに泣きたくなる日もある。

そんな日に小三治さんを聞いたりする。江戸っ子で職人で威勢がいい八五郎の「いいか、人が言ったと思うから腹がたつ。天が言ったと思え。これすなわち天災だ」なんて言葉が聞こえてくる。

天災はどこへねじこんでいくわけにもいかないからと納得したりする。

読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️