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くもをさがす

西加奈子さんのがんの本を読んだ。

その向こうに境界線の見える病はつらいけど、病を得たことで、たくさんのことを気付かせてくれる。


まず自分のこと。自分の知らない自分と対峙して、ああ、そうだったのか、と思う。

生きることが切実になって初めて見える景色がある。

なぜ自分なのか、という問いのせつないこと。告知の日の衝撃はそれぞれ抱えることになる。

あたしの大好きな数少ない友人はみな西さんと同じ病を得た。もういないひともふたりいるが、たくましいサバイバーもいる。

こういう類の病には、時間が与えられている。どう立ち向かうのか思案する時間であり、今身のうちに起こっていることを受け止める時間でもある。

そんな時間に身を置くと、大切なものの順番がクリアになってくる。必要なもの、そうでないものの線引きに迷いがなくなる。

まず生きること。そこに想いを集中させる。カナダの医療機関のことが細かく書かれていて、日本とは違うシステムに戸惑っている感じが伝わってきた。

それでもまわりのひとたちのあたたかな支援がしみてくる。外国で暮らすことの大変さに想いを馳せつつも、西さんの持ち前のひとなつっこさ、ひとたらし的な対峙の仕方に感心するばかりだ。

お国柄かもしれないが、まわりのひとの優しさは言葉だけでなく、具体的にどう動くのかで示される。自分ができることであなたの役に立ちたいという思いが滲んでくる。

愛や情に溢れる素敵な友人たちに恵まれておられるなあ、と感心する。普段からそういうお付き合いをされてきたんだな。それ、素敵だな。

自分もそうだったが、あらためて書くことがこんなにも救いになるのだ、と知らされる。

無事の生還、なにより。

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