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分福楽雲
2024年2月29日 22:55
目的の家のドアの前で、エメとディアは並んでいた。「ほんとに行くのか?」「もちろん。ついでに、今夜はここで泊まらせてもらおうぜ」 顔が引きつるエメをよそに、ディアは後ろ脚で立ち、前足で玄関ドアをトントンカリカリし始めた。「トゥインクル〜、オレだぁ〜。ディアだぁ〜。入れてくれ〜」サッ… 玄関の右隣にある部屋の窓辺から光が漏れてきている。その枠の中、下から跳んで現れた1匹の猫が、ディア
2024年2月21日 11:15
それは少し前にあったお話。夜の街、薄暗い路地に、音も無く歩く影がひとつ。カサカサッ 彼はその物音を聞いて、ピクリと足を止めた。 美味しそうな香りが漂うこの一帯の壁際には、私たちの目にはわからない、小さな獣道があるようだ。「……」 キョロキョロクンクンと辺りを確認しながら、用心深く早歩きする尻尾の長いその子を、エメラルド色に煌めく瞳が捉えた。 スッスッと静かに近づいていく。その暗