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カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第24回=完 「モダンガールの寄り道」
ブックカバーのことを、古い言葉で「書皮」と言う。書籍を包むから「書」に「皮」で「書皮」。普通はすぐに捨てられてしまう書皮だが、世の中にはそれを蒐集する人たちがいる。
連載「本を包む」では、古本愛好者のカラサキ・アユミさんに書皮コレクションを紹介してもらいつつ、エッセーを添えてもらう。
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着物姿の女性がソファに腰掛け本を読んでいるシルエット。なんと優雅でお洒落なデザインだろう。
銀座の一等地にかつて存在した老舗書店で使われていたブックカバーと知って納得している。
この近藤書店は明治16年、初代の近藤音二郎が草創期の銀座4丁目交差点近く、現在の三越の左端に出店したのが始まりだ。その後、何度かの移転を経て、昭和56年に同一経営で隣接していたイエナ洋書(昭和25年創業)とともに銀座5丁目に新しくできたビルに移り、和洋書の総合書店となった。それ以降は、閉店する平成15年まで長きに渡って銀座文化の一端を担う書店として多くの読書人に愛された。
近藤書店というと1990年代に使用されていた「書籍の図柄と同書店のスローガンでもある〝知は力なり〟(哲学者フランシス・ベーコンの格言)の言葉が印刷された緑色のブックカバー」が有名だそうだが、今回紹介するのはおそらく戦前に使用されていたと思われる珍しい1枚だ。記載されている電話番号をもとに調べてみると、1939年以前のものである可能性が大きい。
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私がこのブックカバーを見つけたのは東京の古書即売会で、沢山の紙物が詰まった箱の中にこの1枚が紛れ込んでいたのだった。確か1枚300円で買った記憶がある。80年以上の月日をよくぞ破れることなく捨てられることもなく今日まで無事に生き残ってくれた! と静かに感動した。
どのブックカバーにおいても言える事だが、これはただの紙ではない。或る書店の歴史が詰まった貴重な遺物なのである。
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その後、縁あって同好の士から近藤書店の栞も譲り受けたのだが、こちらもブックカバーと同様に読書する女性が描かれていた。
昭和を代表する写真家・土門拳の作品に近藤書店で本を物色する若い女性達が被写体になったものがある(下記リンクを参照)。写真の中に写る、当時流行のファッションを身に纏い本を楽しそうに又熱心に眺める女性達の姿は全く時代を感じさせない。
引き続き検品中のなかから『フォトアート 1956年11月号』(研光社)より。
— 香澄堂書店 (@kasumidosyoten) September 22, 2020
同誌に連載中の土門拳の「連作・若い人 (11)」の「銀座の近藤書店の若い女性」と沖田年永の「全国めぐり (11) 神戸・新開地」の「新開地タワーと湊川公園」と「赤線地帯・福原」。
今はなくなったものばかりです。 pic.twitter.com/jczwMPUctx
私が思うに、近藤書店はモダンで文化的な魅力の発信地であった銀座という土地柄と知的好奇心を存分に満たす豊かな品揃えで、時代を問わずとりわけ女性客のハートを掴んでいた稀有な書店だったのではないだろうか。
煌びやかな銀座の目抜き通りを闊歩し、その足で近藤書店に颯爽と入店していく当時の女性達の姿を想像するとなんとも楽しい。
今では古色蒼然たる佇まいと化したこのブックカバーも、きっと彼女達にとってはキラキラと宝石のような輝きを放つ最先端の包装紙だったに違いない。
文・イラスト・写真/カラサキ・アユミ
1988年、福岡県北九州市生まれ。幼少期から古本愛好者としての人生を歩み始める。奈良大学文学部文化財学科を卒業後、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の販売員として働く。その後、愛する古本を題材にした執筆活動を始める。
海と山に囲まれた古い一軒家に暮らし、家の中は古本だらけ。古本に関心のない夫の冷ややかな視線を日々感じながらも……古本はひたすら増えていくばかり。ゆくゆくは古本専用の別邸を構えることを夢想する。現在は子育ての隙間時間で古本を漁っている。著書に古本愛溢れ出る4コマ漫画とエッセーを収録した『古本乙女の日々是口実』(皓星社)がある。
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