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書評『順茶自然』澄川鈴著 / 株式会社遊茶 代表 藤井真紀子


誠実さと温かさに心地よく包まれる1冊

 
 澄川鈴すみかわれいさんと出会ってから、もう足掛け15年ほどになるでしょうか。私と王亜雷おうあらい先生が運営するNPO CHINA日本中国茶協会が開催していた、当時の中国政府公認職業資格である「茶藝師」「評茶員」の講習会と試験に参加くださってからのご縁です。

 今もスリムな鈴さんですが、その頃は少し強い風が吹けば飛ばされそうなくらいに細くて、しかも、なんとなく不安げで、思わず「大丈夫?」と声をかけたくなるくらい、失礼を承知で申し上げますと、やや心許こころもとない様子でした。

 ところがその後、先述の試験に合格し、資格を取得した鈴さん。お目にかかる度に、何かに向かっていこうとしていらっしゃる意志が、1枚1枚皮が剥けていくかの如く、強く感じられるようになり、北京に留学するというお話を聞いた時には、ビックリすると同時に、「やっぱりね」と納得できるものがありました。

 そして北京留学中、一時帰国の折にお会いした鈴さんに、昔のか弱い面影おもかげはなく、定めた目標に向かっている喜びが強さとなって輝いていました。ご帰国後、着々と準備を進め、「鈴家 -suzuya-」のオープンに至られましたたことは、必然にさえ思われます。

 ある地域や集団の文化や風習を語るのは、自分が生まれ育った土地であっても、ましてや他国に関しての場合、とんでもなく難しい作業です。隅から隅まで知り尽くしているはずもなく、必ず例外があり、常に変化しています。

 ですから、地域や集団の文化や風習についての記述は、その時の筆者個人の思考や志向、知見に基づく、偏見に満ちたものとの理解が必要なのですが、往々にして決めつけ的な内容が多く、読む側に関連する知見がないと内容の正確性の判断ができないまま、誤った認識の定着や拡散に繋がりやすいのが現実です。

 今回、鈴さんが上梓された『順茶自然』は、その点をしっかりと「はじめに」で述べられた上で、鈴さんが見た、感じた、考えた中国、中国人、中国茶を語りたい、伝えたいという気持ちが、それに至った経過と共に明確に記されています。ここを読んだだけで、鈴さんの物事と人に対する真っ直ぐな向き合いかたに感銘を受け、本文で展開されていくお話に信頼と期待を感じずにはいられなくなるのは私だけではないはずです。

 一気に読み終わってしまいました。平易へいいでいて陳腐ちんぷでなく、硬すぎず柔らかすぎず、かといって無機質でも無個性でもない穏やかな文面。鈴さんという存在を知らしめながらも主張し過ぎず、大上段に構えるわけでも、評論家になるわけでもなく、その身で経験なさったことに適切な裏付けを用意してさっくり伝える内容。全体が鈴さんの誠実さと温かさに心地よく包まれて、久しぶりに、良いものを読ませていただいた気がしています。

 中国にも中国人にも中国茶にも縁遠い方が読まれれば、「もっと知りたい、自分も関わってみたい」と、中国や中国人や中国茶のいずれかに関わりのある方が読まれたら、「もっと知らなくては、もっと関わってみなければ」と思われること、間違いありません。



藤井真紀子(ふじい・まきこ)
株式会社遊茶 代表/NPO CHINA 日本中国茶協会副代表/安徽農業大学茶与食品科技学部客員講師/湖南農業大学園芸園林学院茶学系客員講師/中国国際茶文化研究会 栄誉理事/中国茶葉流通協会 顧問/中国政府公認 評茶員・茶藝師
十余年に渡る中華文化圏での滞在中、ある中国茶との運命的な出遭いをきっかけに、帰国後、表参道に中国茶専門店「遊茶」を開業。同時にNPOを立ち上げ、ビジネスと学術・文化交流の2面から日本における中国茶の浸透に尽力。
自社での講習会開催の他、企業や公共団体、地方自治体からの要請をうけ、開催した中国茶セミナーや講演は数知れず。TV、雑誌などの取材も多い。その功績が認められ、2016年には中国の国家認定団体である中華茶人連宜会より「中華茶文化伝播優秀工作者」に、唯一の外国人として選出された。

遊茶公式サイト
日本中国茶協会公式サイト


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