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中国茶のある暮らし――4月のお茶「龍井茶」

長い歴史に磨かれた豊かな中国茶の世界。
四季折々の甘味や食に合わせるお茶を、中国政府公認高級評茶員・茶藝師の澄川鈴が提案します。
心に余裕がなくなりがちな日々だからこそ、めぐる季節を愛で、自分を癒すひとときを。
そして、お茶を通して見える中国の人々の素顔と暮らしにも、ほんの少し触れていただけたらと思います。

清明節を祝う?

 中国では、今年は4月5日が清明節せいめいせつです。清明節とは、日本で言うところのお盆のお墓参りを行う節日です。
 ちょうど緑茶の生産時期と重なることから、日本の中国茶業界では毎年盛大に清明節をお祝いします。

 しかし、よくよく考えてみてください。日本のお盆にあたる清明節を〝お祝い〟するというのは少しおかしくないですか。新年に「明けましておめでとう」とは言っても、お盆に「おめでとう」とは言わないはずです。
 中国本土の茶業界の人々も、かねて清明節をお祝いする日本の中国茶業界に対して「なんで清明節を祝うんだ?」との疑問を抱いていました。

 ところが数年前のこと。中国本土の茶関連の会社や協会などのメルマガを見ていると、「清明節快乐(qīngmíngjié kuàilè/清明節 おめでとう)」といった清明節を祝う言葉が散見された時期がありました。それは日本の中国茶業界の影響を受けてのことだと私は見ています。
 歴史的には中国で生まれた茶の文化が日本に流入したわけですが、現代では日本から中国へ〝逆輸入〟していることも少なくありません。
 例えば、数年前の中国の茶器市場では、ミニマルなデザインの公道杯やティーマットなど、日本風(中国語で「日式(rìshì)」)の茶器が大量に売り出されました。
 ちなみに、中国の茶業界での「節日快乐」との言葉遣いは、現地のネット空間などで「なんで清明節を祝うんだ?」「〝快乐〟ではなく〝安康(ānkāng/安らか)〟という言葉を使うべきでは?」といった議論を呼び、結局は定着しなかったようです。

 先日、中国で2021年に放送された『小舎得(xiǎoshědé)』というドラマを見ていると、上海に住む男性が清明節に家族に茶と草団子を振る舞うというシーンがありました。留学していた頃の私は北京に滞在していたので馴染みがないものの、上海では清明節に草団子が食べられるようです。

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 そこで今回は、中国緑茶の最高峰と言われる浙江省せっこうしょう龍井ロンジン茶と、そのお茶請けに草団子を用意しました。

 草団子は、桂離宮(京都市)のすぐそばで明治16年から続く「中村軒」の「ひとくちよもぎ」「よもぎだんご」の2種類。龍井茶は清明節前に製造されたものが最高品質とされ、炒めた豆や芋のような香りと爽やかな風味は病みつきになること間違いなしです。
 ガラスのコップのなかで上下する茶葉の様子を楽しみながら、ゆっくりした時間をお過ごしください。

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