カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第21回 「哀愁漂うブックカバー」
ブックカバーのことを、古い言葉で「書皮」と言う。書籍を包むから「書」に「皮」で「書皮」。普通はすぐに捨てられてしまう書皮だが、世の中にはそれを蒐集する人たちがいる。
連載「本を包む」では、古本愛好者のカラサキ・アユミさんに書皮コレクションを紹介してもらいつつ、エッセーを添えてもらう。
私には特定の好きな風景というものがいくつもあって、その中には〝スーツ姿のおじさんが電車の中で文庫本を読んでいる姿〟も挙げられる。読まれているものが長編歴史小説などだったら特に良い。
この新橋駅書店の文庫本カバーを眺めているとなんだか自然とその風景が私には浮かび上がる。「新橋駅=電車×サラリーマン」の印象が強いからだろう。
駅周辺はオフィス街や飲屋街が目立つのもあり「サラリーマンの街」とも呼ばれている。西口のSL広場はよくテレビの街頭インタビューが行われる場所としても知られている。また、1872年に日本で初めての鉄道が開通された地であり、発着駅として利用された歴史あるこの駅は鉄道ファンからも人気が高い。
新橋駅書店は戦後間もない1948年(昭和23年)に開店した老舗書店だったが、2009年(平成21年)に60年余にわたって灯したその明かりを消した。場所柄か鉄道関係の書籍が充実しており、駅名を背負う書店として相応しい品揃えだったそうだ。まだ携帯が普及しておらず誰もが当たり前に電車の中で本を広げていた時代、通勤するサラリーマンやOLにとってきっと「身近な憩い場」として存在していたのだろう。
ちなみに、新橋駅前のSL広場では毎年「新橋古本まつり」が開催されている。興味本位で会場風景をネットで検索していると、そこには仕事帰りのスーツ姿の男性達が思い思いに本が並ぶ棚を覗き込んでいる背中がズラリと写っていた。あぁ、なんて良い風景だろう……としばらく見入った。新橋駅書店でもきっとこれに近い光景が毎日見掛けられたに違いない。
もはや見ることが叶わない今は無き書店風景を想像していると、カバーに描かれた〝文庫本がポツンと置かれた椅子〟にすら、しみじみと哀愁を感じてしまう私なのであった。
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