見出し画像

風たちの午後


1980年に公開された映画である。
私は2019年にミニシアターで初めて観て、心に残った。
物語は同性愛を描いたもので、主人公の女性は、恋心を秘めながら
友人とその恋人と付き合いを続けている。
ただそれだけの話しである。後半、大きな悲劇があるが、然し、物語はあくまでも純粋な恋乃至は愛を描いている。

モノクロ映画である。モノクロ映画は美しい。
白と黒、その原色だけで、こんなにも鮮やかになるものなのか。
モノクロ映画を観ていると、白色や黒色も一元ではなく多元的多層的であることに改めて気付かされる。
そして、様々な色の洪水に惑わされることなく、物質そのものの形の美しさをも、改めて教えてくれる。
女性は、モノクロでこそ美しく、唇の赤いのが視えるようだ。

この映画の素晴らしいのは、効果音の中に飲み込まれる声たちである。
邦画は聞き取りづらいものだが、今作は聞き取りづらいではなく、
耳を欹てなければ聞き取れない(笑)
こそこそと、耳元で囁き合う、あの感覚。
秘密の会話に、観客は必死で聞き耳を立てる。そうすると、もうその世界に入り込んでいる。
作中、雨が振り続ける中、会話をする女性二人。
このシーンは音と二人がとにかく美しいのだ。
雨音が美しい調べなのは万人の共通の認識であろう。
こんなにも近くで囁いても、恋の言葉は雨音に流されていく。

彼女たちが話していた言葉を、私はよく覚えていないが、
彼女たちが囁きあっていたその表情は、私に忘れられない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?