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『死霊の罠』を愛している

『死霊の罠』、という映画がある。
1988年の日本映画で、過激なスプラッタ映画である。

物語はテレビ局で働くレポーターである主人公の名美(脚本は石井隆。彼の物語には必ず名美がいる)の元に、1本のビデオテープが送られてくる所から始まる(禍禍しい物語には必ずビデオがある)。そのビデオには、自分そっくりの女性が拷問を受けている姿が映っていた。ビデオから撮影現場を特定し、その先に番組スタッフを連れて乗り込むのだが…というあらすじ。

まず冒頭のスナッフフィルムのシーンが凄い。女性の目にナイフを突き刺し、破れた水晶体からぶわーっと水が出てくる。すごいシーンである。まるで『春琴抄』だ。ここで一気に観客を掴む。

ビデオの撮影現場には案の定5名(うち男1人)というなんとも頼りのないメンツで向かうのだが、この場所がまた禍禍しい。金網がされた、打ち棄てられた基地のような場所。夕暮れ、赤く焼けた空を背に、人気もない朽ち果てていく建物の中をいく。
奥へ奥へ。怖ろしい殺人の香りが濃厚に漂い始める。
お色気ももちろんあるが、そんなものよりも凄まじい肉体損壊がこの映画の肝であり、その凄惨な現場にはどこか海外の匂い。

犯人と思わしき人物の部屋の不気味さ(或いは、美しさ)はどうだろう。和製アルジェントと呼ばれているが、まさにその通りで、全体の色彩は和の抑えた少ない色味ながらも、まさに『魔』の部屋を造り出した美術が顕れる。
アルジェント的極彩色は最後の闘いで顔を出す。まさかのSF要素に少し面を喰らうが、併しどこまでも悪趣味なホラー映画として真っ当である。

冒頭、島田紳助がTV局の上司として1分にも満たない出演をしているのが、この異界映画と現実との唯一の接地点。正直、あの声にとても安心する。

監督の池田敏春は紛れもない天才である。『人魚伝説』という傑作も遺した。私はまだ、彼の傑作と言われる『くれないものがたり』を観ていない。
ネットで少しだけ観られる本編には、『死霊の罠』と同じく吉良知彦の音楽が流れていて、その幽かな音楽に心が惹かれる。
「ここは妖(あやか)し、とうに滅びた都のまぼろし」という惹句が私を魅了して止まない。でもビデオしかないのである。禍禍しいものは、なんだってビデオなんである。

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