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男の子のように美しい田舎の娘

4.冬の星座

 枯葉が落ちる音が聞こえる。枯葉は落ちていくとき、叫び声をあげない。ただ役割を終えると、ひらひらと落ちて、先に落ちたものたちの仲間入りをする。
 部屋のランプをつけると、橙色の明かりが室内を満たした。私はベッドから起き上がると、まだ重い目ぶたを持ち上げて、窓を開けた。外から、虫の音色と、木菟の声、そうして、ピアノの音色が聞こえてくる。それからまた、異邦人の声。
 あの娘がまた、ピアノを弾いている。私には、目を閉じても娘の横顔が浮かぶようだった。
 ピアノの音色は、夜想曲のように、このヴィラ全体に天蓋を下ろして、舞台劇に染め上げていく。私は物語の人物のように、自分が思えたものだった。
 窓から見える、数多の星々に、私は目を見張った。時折、流星がこぼれた。そうして、それは東京や京都のような都市とはまるで比べものにならないほどたくさんに続くのだ。ひとつひとつが夜空に線を書く。それは、物語や楽譜を神が星を使って書くかのようだ。その神の書いた曲を、今娘が弾いているのだろうか。私は、あの人形施設で見た、男の連れていた人形を思い出した。あの人形は、背中に翼を隠しているようにすら思えたが、おそらく、この娘の背にも翼があって、その翼を隠している。天使の弾くピアノは、天上の調べであり、私はその調べの巧緻なことと、美しい娘の作りの見事さに、嫉妬する他はないのであろう。
 空に浮かぶ星々を見つめていると、私は私の人形が、星座になって浮かぶ姿を見た。その横に並ぶのは、薔薇の星座であろうか。人形の星座が、薔薇の星座を握りしめて、私を見つめている。
 私はピアノの音に、現実に引き戻されて、そうして、階段を下った。庭師が、ソファに腰掛けて、娘のピアノに聞き惚れている。ピアノの上には、小さな花瓶があって、そこには秋のさくらが、その愛らしい花びらをライトに照らされて、太陽のように美しい。黒々としたピアノは暗黒の小宇宙で、白鍵が踊りながら光り語るのは星の誕生である。ロビーは天体図のようで、この天使が一人天翔る。
 私は庭師に横に腰を下ろすと、娘の奏でるメロディを聴き続けた。
 娘は、演奏を終えると、振り向いて、私を見つめた。そうして、ぱっと花やいだようにほほ笑んだ。庭師が立ち上がり、娘に小さな菫の花を渡した。娘の手の中で、菫が輝いて、その色が娘の目の中で冷たい冬の星座のようにまたたいた。
 新しい宇宙が生まれて、私は開いたままの玄関から、かすかにだけ見える古い夜空を見つめたが、星は出ていない。


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