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テニュア獲得への道

嬉しい報告です。2022年12月1日より、テニュア審査を経て副教授(日本で言うと准教授)に昇進しました。

今日は中国のテニュア審査についてお話したいと思います。

私は現在中国雲南省の云南大学西南天文研究所(SWIFAR)に勤めており、何故、中国に渡ったのかはこちらの記事にまとめましたので、興味のある方はご一読ください。


アカデミックキャリアについて

私はまず、SWIFARにテニュアトラックとして採用されました。「テニュアトラックとは何か?」と思う方も多いかもしれないので、アカデミックキャリアについて簡単に説明したいと思います。

一般の人にとって、アカデミックキャリアと聞くと、「大学教授」というのが一番聞き馴染みがあるでしょう。大学で研究していると一般の方に言うと、「将来は教授ですね!」と言われることがあります。同様な経験をした研究者は多いのではないでしょうか?しかし、大学教授というのはアカデミックキャリアの最高峰に位置する職位であり、ここまで上り詰めるのは並大抵のことでは有りません。

アカデミックキャリアをざっくりまとめると、「教授←准教授←(講師)←助教←ポスドク←博士課程学生←修士課程学生」となっています。修士課程や博士課程の学生は大学院生であり、博士課程で研究して論文を書き、それが認められると博士号を授与されます。博士号を取得後に民間企業に行く人もいますが、アカデミアに残りたいと思ったら、まずはポスドクを経験します。

ポスドクは正式には「postdoctoral fellow」で、「博士号研究員」などと呼ばれています。ポスドクは新人研究者にとって修行期間であり、学生の頃に身に着けたスキルを伸ばしたり、新しいスキルを身につけることで自分の研究の深さと広さをレベルアップしていきます。

ポスドクは任期付き職であり、通常2,3年の任期があります。つまり、任期が切れると次のポストを探さないといけないのです。そのため、ポスドク研究者は次のポストに繋げるためにも研究結果が求められます。私はパリ天文台で2年、清華大学で1年8ヶ月ポスドクを経験しましたが、確実に任期が切れる事が分かっているので、次のポストを見つけることができるのか不安であり、また、研究成果を求められる事によるプレッシャーもありました。

さて、ポスドクを何度経験しても所詮は任期付きポストなので、ある程度ポスドクを経験したら、任期の無い安定したポストをゲットしたくなるというのが人情というものです。したがって、ポスドクを何度か経験したら、そういった任期なしポスト(テニュアポストあるいはパーマネントポストと呼ばれる)に就くための公募に応募する事になります。ちなみにテニュアとは永久在職権という意味です。しかし、この任期なしポストをめぐる競争はとても厳しいです!天文学の場合だと、1つの任期なしポストに対して、倍率が数十倍、場合によっては100倍近くなることもめずらしくありません。というわけで、私はチャンスを高めるために日本だけではなく海外の任期なしポストにも応募しました。その結果、云南大学からオファーを貰ったのですが、それが「テニュアトラック」ポジションでした。

テニュアトラックポジションとは、すぐにテニュアを付与するわけではなく、3年とか5年の試用期間の後、審査を経て合格するとテニュアになるポジションであり、アメリカなどで採用されているシステムです。近年では、中国や日本でもこのテニュアトラックポジションが取り入れられ始めています。私の場合は、3年間の試用期間の後にテニュア審査があるというもので、2022年11月にテニュア審査がありました。

テニュアトラック期間、そしてテニュア審査

テニュア審査に求められるものは、大学や研究所によって異なります。通常はテニュアトラック契約の際の契約書類に、テニュア付与に必要な条件が記載されていることも多く、求められるのは大きく分けて、

  1. 研究業績(論文)

  2. 研究費獲得歴

  3. 教育(大学院生指導、授業)

  4. 外部評価推薦書

です。(言うまでもないことですが、問題を起こさないことは最低条件です。)しかし、私の場合はテニュアトラック契約書にはテニュア審査条件について何も記載されていませんでしたので、何が求められるのか分からないままでした。良くも悪くもフレキシブルなわけです。ちなみに、中国の某有名大学だと、5年間の間に論文4本以上(共著論文も可)、中国人も応募する研究費(NSFC)をゲットするという数値目標が契約書に明示されているとのことでした。

私はテニュアトラック期間3年の間に、論文5本(うち主著論文4,共著論文1)、研究費3つ(うちPI2つ、co-PI1つ)、2名の大学院生指導、招待講演3つ、招待されたコロキウム9つ、7つのアウトリーチ活動という業績でした。

テニュア審査ではこれらの業績や、研究ハイライト、将来研究計画、教育プランなどをまとめた書類を提出し、外部評価委員で構成させる委員会でプレゼンを行いました。ちなみにプレゼン資料はこちらで公開しています。

委員会でのプレゼンでは、研究ハイライト、将来の研究・教育計画、業績を20分でプレゼンし、その後、30分の質疑応答がありました。質疑応答では、研究内容に関する質問や、将来のビジョンに関する質問が多かったです。また、私の場合は中国で築いたコネクションに関する質問もありました。緊張はしたものの、楽しんで発表や質疑応答ができた1時間でした。

それから1週間後にテニュア獲得できたというのを契約更新の段階で知らされました。

正直なところ、研究業績、グラント獲得歴もあるし、テニュア取得できるだろうという楽観的な展望もあったのですが、後から聞いた話だと、中国では外国人がテニュア審査で落ちるという話は珍しくないとのことで、テニュア審査への恐怖がテニュア獲得後に遅れてやって来ることになりました。

中国でテニュア獲得に求められるもの

何故、中国では外国人がテニュア審査に落ちる場合があるのでしょうか?まず考えられるのが、研究業績が足りない場合ですが、テニュア審査に挑む人はテニュアトラック期間中にある程度の業績を得ているのが普通です。しかし、論文数やグラント獲得歴など、数値的なものではなく、研究内容自体のインパクトが足りないとの理由で、評価委員がテニュア獲得にふさわしくないと評価する場合もあるということを聞きました。

また、これは外国人特有なのですが、中国でコネクションを築くことができたのかもどうやら評価対象に入っているみたいです。「お客様」として中国で研究するのではなく、中国で中国人たちとコネクションを築き、中国のサイエンスに貢献できるのかも見られているということです。私の場合、ポスドク時代に中国の人脈を広げていたこと、また、中国のプロジェクトにも関与していることが評価されたのではないかと予想しています。あと、研究とは関係ないのですが、プレゼンの最後に冗談で「HSK4級獲得したのもこの三年間の業績の一つである」と紹介したのですが、結果的に中国に馴染もうとしている姿勢を示せたのかもしれません。

以上を踏まえると、中国でテニュア獲得を目指す際は、論文数やグラントなどの数値的な実績だけではなく、数値には現れない現地の人々とのコネクション作りも必要だというのが私の感想です。特に後者に関しては、テニュアトラック契約書にはまず書かれていない内容ですので、中国でテニュア獲得を目指す人にとってこの記事が参考になればと思います。

終わりに

博士号を取得してから6年でテニュア副教授ポジションをゲットできたことは、私の実力を考えると出来すぎだというのは自分が一番良くわかっています。しかし、日本に固執すること無く海外マーケットも視野にいれて就職活動をするという戦略が良い方向に働いたなと思います。博士号取得以降、ずっと海外で研究を続けてきたことは楽しいことだけではありませんでしたし、海外生活ならではの困難も多々ありました。しかし、そんな困難の先に海外でテニュアポジションを取ることができた自分を少しは褒めてやりたいとも思います。

また、特に若い研究者達は昨今のアカデミックポストが少なく、研究者としてのキャリアに対して不安に思っている人も多いと思います。海外での苦労を知っているからこそ、私は彼ら・彼女らに「海外のポストを狙ってみれば良い」と安易に勧めることはできませんが、海外に挑戦する若者を私は全力で応援しますし、彼ら・彼女らにとって私の経験が少しでも役に立つなら望外の喜びです。



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