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"General theory of relativity"(Dirac)を読む1

ディラック方程式で有名な20世紀の天才物理学者の一人であるディラックがフロリダ大学で起こった一般相対性理論の講義をまとめたのがテキストとして発売されている。この一般相対性理論のテキストは原書だとわずか70ページしか無く、コンパクトに一般相対性理論をまとめた内容として有名である。

日本語版でも発売されている。

この名著をゆるゆると読んでいき、メモを作成していく。

まずは、Chapter1「Special relativity」

Diracのテキストでは相対性理論はわずか2ページでまとめられている。そこには有名な$${E=mc^2}$$やローレンツ変換はなく、テンソルの説明が書かれているだけであり、Diracにとっての特殊相対性理論の本質は「テンソルを用いた座標変換の記述」というのが垣間見える。

まず、物理における時空の記述には4つの座標、すなわち、時間$${t}$$と3つの空間座標$${x,y,z}$$が必要であることから始まる。これらを以下のように表す。

$$
t=x^0, \quad x=x^1, \quad y=x^2, \quad z=x^3
$$

すなわち、4つの座標は$${x^{\mu}(\mu=0,1,2,3)}$$と表される。ここで、添字は”balancing”のため上付きになっていることに注意しよう。この”balancing”については後のチャプターで見ていく。

さて、ある場所と微小距離だけ離れた点$${x^{\mu}=dx^{\mu}}$$を考える。$${dx^{\mu}}$$は微小距離を表す量だが、ベクトルの成分とみなす事ができる。

特殊相対性理論では、座標変換は"linear homogeneous"で与えられる(ローレンツ変換のこと)$${^1}$$。この線形変換の下で、以下の4次元的な距離は不変量である。($${c=1}$$の単位系を使っている)

$$
\left(d x^0\right)^2-\left(d x^1\right)^2-\left(d x^2\right)^2-\left(d x^3\right)^2 \tag{1.1}
$$

$${dx^{\mu}}$$と同様な座標変換を受ける量$${A^{\mu}}$$のことをcontravariant vector(反変ベクトル)と呼ぶ。また、共変ベクトルから作り出される不変量は以下の様に表すことが出来る。

$$
\left(A^0\right)^2-\left(A^1\right)^2-\left(A^2\right)^2-\left(A^3\right)^2=(A, A)\tag{1.2}
$$

2つの異なる共変ベクトルのスカラー積で表される不変量は以下の通り。

$$
A^0 B^0-A^1 B^1-A^2 B^2-A^3 B^3=(A, B) \tag{1.3}
$$

さて、この様な共変量を作るときに便利に記述する事ができる様、下付き添字のベクトルであるcovariant vector(共変ベクトル)を導入する$${^2}$$

$$
A_0=A^0, \quad A_1=-A^1, \quad A_2=-A^2, \quad A_3=-A^3 \tag{1.4}
$$

共変ベクトルと反変ベクトルを用いると、式(1.3)の左辺は$${A_{\mu}B^{\mu}=A_0B^0+A_1B^1+A_2B^2+A_3B^3}$$あるいは、$${A^{\mu}B_{\mu}}$$と表せる(同じ添字が現れた時は、添字の数字について和を取るというテンソル計算のルール(縮約、contraction)がある。)

2つの反変ベクトル$${A^{\mu},B^{\mu}}$$はそれぞれ4つの成分を持つので、この2つを組み合わせると4×4=16の成分を持つ$${A^{\mu}B^{\mu}}$$を作り出すことができる。この16個の成分を持つ$${A^{\mu}B^{\mu}}$$を2階のテンソルと呼ぶ。(必ずしも16個の成分である必要はない。4つの成分を持つ反変ベクトル2つから作られたので16個の成分を持つだけである。)

2階のテンソルは異なる2階のテンソルを足し合わせることで、任意のテンソルを作ることができる。

$$
T^{\mu \nu}=A^\mu B^\nu+A^{\prime \mu} B^{\prime \nu}+A^{\prime \mu} B^{\prime \nu}+\cdots
$$

ここで重要なことは、一般的にテンソルは座標変換の際、その変換は$${A^{\mu}B^{\nu}}$$と同じ方法になるということである。

テンソルの添字の上げ下げは可能であり、例えば$${T^{\mu\nu}}$$から$${T^{\mu}_{\nu},T_{\mu}^{\nu}}$$や$${T_{\mu\nu}}$$を作り出せる。具体的にはChapter2で見る。

$${\mu=\nu}$$のとき、$${T_{\mu}^{\mu}}$$となるが、先程述べた縮約ルールにより、$${\mu}$$について0から4までの和を取る。また、縮約を取って計算するとスカラー量になる。

ここでは、2つのベクトルから2階のテンソルを作り出す方法を見たが、3個以上のベクトルでも同様な方法で、3階以上のテンソルを作り出すことができる。

高次テンソルの場合での縮約の例を見る。例えば、4階のテンソル$${T^{\mu \sigma}_{\nu \rho}}$$で、$${\sigma=\rho}$$の場合、$${T^{\mu \rho}_{\nu \rho}}$$となり、同じ添字が二つ出てきているので縮約を取ると、$${\mu,\nu}$$成分のみを持つ2階のテンソルとなる。さらに、$${\mu=\nu}$$とすると、1成分しか持たないスカラー量$${T^{\mu \rho}_{\mu \rho}}$$になる。(同じ添字が2回出てくる場合、ダミーの添字と呼び、何の文字を使っても良い。例えば、$${\mu,\rho}$$の代わりに$${\alpha}$$や$${\beta}$$を使っても良い。)また、1つのテンソルにおいて同じ添字は3個以上出てこない。

(注釈)

1.アインシュタインの特殊相対性理論の原論文では、ローレンツ変換を導出する際に時空の一様性より変換は一次式で与えられることを要請している。

2.共変ベクトルと反変ベクトルについては、「物理量は座標系によらない量であるが、それを座標系で記述するために基底ベクトルを導入する必要があり、その成分は座標系によって異なる。そして、座標変換の際にその成分が変化する。この座標変換の際に基底の変換と逆の変換で成分が変換されるとき、反変ベクトルと呼ぶ」という、物理量の幾何学の観点で説明されるのが個人的には腑に落ちた。例えば『一般相対論入門(須藤靖)』で詳しい説明がある。

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