見出し画像

自閉症児の運動会奮闘記①(徒競走編)

徒競走の練習

昨年10月、息子にとって「小学校での2度目の運動会」がやってきた。
息子は現在小学2年生。
発達障害(自閉症)と知的障害、睡眠障害があり、支援級に在籍している。
普段は授業のほとんどを支援級で受けているが、運動会では、通常級の子供たちに混ざって競技に参加することになるのである。

2年生の種目は「徒競走(50m)」と「表現(ダンス)」である。
この徒競走に参加することを、息子はとにかく嫌がっていた。

元々、学校でも放課後等デイサービス(放デイ)でも、勝ち負けのある遊びに参加したがらないことが多いと先生方から聞いていた。
徒競走も勝ち負けがはっきりとわかるので、嫌がるのかもしれない。

なお、後に本人から聞いてわかったことだが、勝ち負けの件だけでなく、「走ると転ぶ」という心配も、徒競走に参加したくない要因だったらしい。

これについては、登校時に
「走ると転んで危ないから、ゆっくり歩いて行こう」
と自分が何度も声を掛けてきたことを、ふと思い出した。

「自閉症の人は言葉を文字通りに受け取りやすい」とよく聞くが、こういうことも起きるのか…と母は頭を抱えた。

練習中から、徒競走を嫌がっている様子がひしひしと伝わっていたのだろう。N先生から、運動会当日の入場についての確認があった。
N先生は、支援級で別のクラスを担当されていて、息子の担任ではないものの、息子が昨年から大好きで慕っている先生である。

通常、各競技の入場時は、子供たちだけで入場門からスタート地点まで移動するが、もしも息子が入場を渋った場合、N先生が一緒について入場しても大丈夫か、という確認だった。
「本来子供だけであるはずの入場時に、先生には付き添ってほしくない、という保護者の意見もあるため、念のために」とのことだった。
付き添っていただけるなら、こちらとしては願ったり叶ったりである。
むしろぜひよろしくお願いします、と伝えた。

いざ本番

さて、入場時のサポートの手はずも整え、いざ本番である。
入場時、やはり息子はN先生と手をつないで、スタート地点まで一緒に移動していた。
つまり、スムーズに入場できない状態、または「入場しない」とごねた、等の事態が考えられる。早くも暗雲が立ち込めている。

競技自体は順調に進み、いよいよ6組目、息子の登場である。

位置について、よーい、ドン!!

最初は他の子供たちでよく見えなかったが、皆が順調に走り去った後、遥か遠く、スタート地点の息子が見えた。
他の子が全員ゴールした中で、息子はまだスタート付近にいる。
なんと、N先生と手をつなぎ、コースをてくてく歩いていたのだ。

ちなみに、昨年、小学校初めての徒競走では、息子はなぜか最初から最後までスキップで参加していた。
周囲の保護者が「あの子、スキップしてるよ…!」とざわついていたが、本人は意外と楽しそうであった。
一緒に走った他の子たちはとっくにゴールして、コースから移動しているため、息子のゴール時は周囲に誰もおらず、もはや独走して1位でゴールしたかのような写真が撮れてしまった。
息子は何やら誇らしげだった。
当時の担任の先生も、「楽しく参加できてよかった!」と大変喜んでくださった。

そんな昨年の記憶をたどりながら、しばらく現実逃避していたが、その間も息子はずっと歩いたままである。
走る気配は微塵もない。
周囲のざわつきも昨年以上である。
先生と手をつなぎながら、ひたすらとことことコースを歩いている様子は、運動会ではなく、どう見てもただのお散歩だった。
(頑張れ頑張れっ、もうちょっと急げるかな~、スキップでもいいから頑張れ~っ!)
と、やきもきしながら見守った。
運動会中に、我が子に「スキップしてくれ!」と願うときが来ようとは、昨年は想像もつかなかった。

考えてみると、今年、(昨年はまだマシだったんだな…)と思ったということは、来年の運動会でも同じように思う可能性があるということだろう。
来年度は、コースアウトか、はたまた出場拒否か。
(昨年は歩いてただけマシだった…)と今年を懐かしむことになるかもしれない、とは肝に銘じておきたい。

親が昨年度と来年度に思いを馳せ、結構な時間あれこれ考えてもなお、息子はゴールしていなかった。
どうにかゴール付近まで来たものの、なぜかゴールを嫌がり、ゴールラインに向けて先生をぎゅうぎゅうと押していた。
もはや何の競技なんだかさっぱりわからない。
とにもかくにも、なんとかゴールにたどりつき、息子の「1人徒歩競争(先生とともに)」はようやく幕を閉じた。

徒競走、その後

2年生の徒競走が終わって、その後の競技が次々と進む中で、予定よりかなり進行が遅れていることがわかった。
周囲の保護者から「なんか時間すごい押してるねー」という声が聞こえてくる度、(すみません、その原因のかなりの部分、たぶんうちです、すみません)と心の中で平謝りだった。

時間がかなり押してまでも、息子がゴールするのを待ってくださった先生方や皆さんに感謝したい。
また、少なくともN先生が一緒に出てくださらなければ、今年の徒競走で息子は、スタート地点に立つことすら難しかったはずである。
無理強いはしないながらも、競技に参加できる最善の方法を、最後まで諦めずに探ってくださったN先生にも、再度感謝したい。

さて、来年の徒競走はどうなることやら。
心配半分、期待半分である。


このエッセイの抜粋版を、「ぴあっと発達情報サイトみかた」の【体験談】に掲載していただきました(タイトル「2度目の運動会」)。
よろしければ、こちらもぜひご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?