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毛のない生き物

洗濯機が故障したため、メーカーに修理を依頼することになった。
修理窓口に電話してみたところ、すぐに折り返しの電話が来て、
数日後に修理担当者が訪問できそうだと告げられた。

電話をくれたのは、ハキハキした、とても感じのよい女性だった。
洗濯機の型番、故障の様子や、不具合が出ている期間など、必要と思われる情報の聞き取りがスムーズに進んでゆく。
聞き取り調査もほぼ終了かと思われた頃、お姉さんより、
「おうちで犬や猫などのペットは飼っていらっしゃいますか?」
との質問があった。
これまでずっと洗濯機について話していたため、突然の犬猫の登場に一瞬
面食らったが、
(ああ、なるほど、修理担当者に動物のアレルギーがある場合の配慮だな)と思いついた。
担当者のアレルギーの可能性にまで配慮できるとは、お姉さんは気配りも素晴らしいなぁと、いたく感心した。

(よし、お姉さんを早く安心させてあげなければ)と謎の使命感に駆られた私は、張り切って返答した。

「家には毛のない生き物しかいませんので大丈夫です!」
「えっ、けっ、毛のない生き物ですか!?」

お姉さんの動揺が電話越しに伝わってきた。どうしたことか。
念のため、お姉さんに確認してみた。
「修理に来てくださる方が、動物の毛にアレルギーがあったら大変、という話ですよね・・?」
「それもあるのですが、お客様の大切なわんちゃん・猫ちゃんが、修理作業中に部品等でケガをしてしまうと大変ですので、ケージに入れたり、別のお部屋に移動させたりしていただけますか、という確認でした」
との回答であった。

かなり威勢よくお伝えしてしまったが、とんだ勘違いであった。
お姉さんは毛の有無など全く聞いていなかったのだ。
私の勇み足で、お姉さんを混乱に陥れてしまった。誠に申し訳ない。

一人で反省していると、お姉さんから
「あの、毛のない生き物というのは……」
と、まさに恐る恐るといった様子で確認が入った。
もしかすると、私の不用意な一言で、ハダカデバネズミや、猫の「スフィンクス」など、毛のない哺乳類を想像してしまったのかもしれない。
ほぼ見ず知らずの人から「家でハダカデバネズミを飼っています」といきなり告げられたら、私も間違いなく動揺する。

「ああ、すみません、金魚とクワガタです」
と答えたところ、
「あっ、なるほど~!」
と先ほどまでと同じ、明るい声で返答があった。腑に落ちてすっきり、という様子が、これまた電話越しに伝わってきた。
ここで「犬や猫がいたらケージに入れてほしい」という、本来の話の流れを思い出し、
「金魚もクワガタも、自分たちの水槽から出てきませんので、ご安心ください」
と伝えると、お姉さんは笑っていた。

後日、修理に来てくださった方に試しに聞いてみると、犬を飼っているとのことだった。
(毛のある生き物を飼っている人だった……)と思ったが、お姉さんとのやりとりについては黙っておいた。


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