見出し画像

任天堂の大会ガイドラインを受けて、景品としてのイラストの提供についての個人的な見解まとめ

任天堂が公開した「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)を踏まえ、「イラストをゲームの大会で使用することは可能ですか?」という質問をいただくことが多いので、個人的な見解をまとめました。
なお、この記事は、任天堂とは何ら関係ないただのゲーム好きの人が個人的な見解を羅列しただけのものであって、任天堂の公式見解や法的な解釈の正解を提供するとかのものではないのでご注意ください。


今回のテーマ(問題点)

今回、界隈で問題視されている記載がこちら。

コミュニティ大会においてプレイされるゲーム名に言及する場合を除き、コミュニティ大会での活動や告知に際して、ロゴやキャラクターのイラスト等の任天堂の商標や知的財産を使用することはできません。

<Q&A>
Q2.コミュニティ大会の告知に、任天堂のゲームのロゴやキャラクターイラストを使用してもよいですか。また、会場の装飾を行うために任天堂のゲームのイメージイラストを使用したり、会場のBGMとして任天堂のゲームの音楽や効果音等を使用したりしてもよいですか。
A2.任天堂のゲームからキャプチャーした映像やスクリーンショットをコミュニティ大会の告知物に掲載する場合を除き、 任天堂のゲームのロゴやキャラクターイラスト、イメージイラスト、音楽や効果音等は、コミュニティ大会の告知や会場の装飾、会場のBGMにはご使用いただけません。

「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(任天堂株式会社)

上記の記載から、大会の景品として絵師がイラストを提供することはNGではないか、という議論(以下「本論点」といいます。)が起きています。
※絵師がイラストを提供することについては、その他にもいくつか論点がありますが、今回は、景品として提供することの是非についてのみ触れます。

前提の整理

本論点について議論をするにあたり、まず少し前提を整理したいと思います。

本ガイドラインの目的

本ガイドラインは、冒頭で、以下のように記載されています。

任天堂は、当社が創造するゲームやキャラクター、その世界に対する情熱を、お客様が広く共有してくださることに感謝しています。また、任天堂は、ゲームのコミュニティを尊重し、ゲームに関わるすべてのみなさまに、協力プレイや対戦プレイによるゲーム体験を、かけがえのない記憶として留めていただくことを希望しています。

 そのため、任天堂は、当社が創造するゲームやキャラクター、その世界に対して、お客様に適切な方法で安心して関わっていただくために、任天堂が著作権を有するゲーム(以下、「任天堂のゲーム」といいます)の非営利で小規模なゲーム大会(以下、「コミュニティ大会」といいます)を開催する場合に守っていただきたいガイドラインを定めました。コミュニティ大会は、以下のガイドラインをご理解の上で開催していただきますようお願いいたします。

「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(任天堂株式会社)

意外と読み飛ばされる方も多いかもしれませんが、本ガイドラインによって任天堂が達成しようとするものが書かれていて、本ガイドラインの解釈の指針になるため非常に重要です。

ポイントとなるのは、
任天堂は、ファンがゲームやキャラクター等へ情熱を持ち、広く共有していることに感謝している
②任天堂はゲームのコミュニティを尊重していて、ゲーム体験をかけがえのない記憶として留めてもらいたいと考えている
③上記①②を大前提として、これらを叶えるために本ガイドラインが定められている
ということです。

個人的には、本論点の整理を行うにあたって、①②の観点は決して読み飛ばすことのできないものだと考えています。

本ガイドラインの建付け

本ガイドラインを遵守した場合、任天堂は「以下のガイドラインを遵守した上で主催することに対して、著作権侵害の主張を行いません」と記載しています。
この点も重要で、前の記事でも記載しましたが、本ガイドラインについては、あくまで「著作権侵害」について、ガイドラインを遵守したものについて「主張しないこと」だけを結論づけています。
この点も本ガイドラインを読み解くうえで、個人的には、かなり重視すべきかなと思っています。

本ガイドラインの命題が「本ガイドラインに遵守しているものについては、主張しない」ということであれば、本ガイドラインを遵守していないものについては、著作権侵害を主張するのでしょうか?
この問いの回答としては、「主張する場合もあれば、主張しない場合もある」でしょう。
すなわち、本ガイドラインは、あくまで今まで違法又はグレーと考えられていた領域に対して、一定のセーフハーバーの範囲を明確化させたにすぎず、このセーフハーバーを超えたもの全てについて、任天堂が違法や請求を行っていくよ、と結論づけているわけではありません。

かなり適当に、イメージ図を作ってみました。

本ガイドライン制定前のイメージ図
本ガイドライン制定後のイメージ図

個人的には、この観点があるかどうかで、本ガイドラインの読み解き方と姿勢が大きく変わるかなと考えています。
仮に本ガイドラインを遵守していない大会であっても著作権侵害の事実が成立しない事案であれば、当然、任天堂は大会主催者に対して著作権侵害を主張することが「できない」わけですから、本ガイドラインを遵守していないこと=絶対にダメ、という構図にはならないことに注意すべきです。
※ここでは「著作権侵害」のみにフォーカスしています。実際には、著作権侵害以外の理由で請求される可能性は残ります(商標権の侵害や、不競法違反等)。ただ、本ガイドラインは「著作権侵害の主張」にしか触れていないため、それらの問題は元々本ガイドラインのスコープ外と考えてよいかと思います。

本論点への私見

結論

個人的には、本ガイドラインを制定前と制定後で、大会の景品にイラストを提供することのリスクについては、何も変わっていないと考えています。
そのため、常識的な範囲で描かれていて、任天堂やゲームの品格を貶めるようなイラストでなければ(任天堂のイラストを丸ぱくりや、猥褻なものや暴力的なもの等に該当しないという意味)、今までとおり大会の景品にしていても、任天堂が目くじら立てて怒ってくることはない、というのが個人的な意見です。

「何も変わっていない」って答え方じゃなくて「問題があるか」「問題がないか」で答えろよ、って思った人がいるかもしれません。
しかし、この問題への回答は、多分、これが最適解だと思っています。
何故なら、イラストを使うこと自体が本ガイドライン制定前から任天堂がダメというかどうか次第、という状況にあったのに対して、今回、「イラストを使わない場合」は(イラストが著作権法違反かどうかの議論は生じないから)著作権侵害の主張はしないよ、という至極当たり前の話をしているだけで、正直、何も状況に変化はないのですから(問題を元々内包していたことに変わりはない)。

理由の概要

私が上記結論に至った理由のPointについて、以下にざっとまとめてみました。

Point1:元々、ゲームのキャラクターをイラスト化することは著作権法上の
    問題はある行為であった
Point2:Point1のように訴える選択肢は常にあったにもかかわらず、任天堂
    は、ここについて逐次著作権侵害を訴えることまではしていない
Point3:過去の株主総会でも、全てを取り締まることまでは、あまり想定し
    ておらず、ファンの活動との間でうまく折り合いをつけたい旨の回
    答を行っている
Point4:本ガイドラインは、「著作権侵害の主張をしない」ということだ
    が、そもそも著作権侵害が起きないような場面も含めて、明らかに
    「著作権侵害の主張をする必要はないよね」って点だけ、ホワイト
    リスト形式で並べている。
Point5:任天堂としても、「イラストOK」と明言はできないが(「イラスト
    OK」が独り歩きしてしまいますし)、本ガイドライン冒頭でファン
    がキャラクター等を共有していることに感謝を伝えると共に、その
    ようなコミュニティを尊重する旨添えており、コミュニティの勢い
    を削ぐ意思は感じられない

要するに、本ガイドライン制定前から、著作権侵害が認められるものについて任天堂は訴えようと思ったら訴えることもできたわけですが、実際に著作権侵害を理由に大会が差し止められたような場面ってまぁ見たことないですよね?(もしあれば後学のため教えてください。どこかのYouTuberが流石に、という企画をしてしまい、任天堂を怒らせた事件はありましたが。)
そこは天下の任天堂ですから、常識的に考えてファンがお互いに趣味嗜好を共有しあうことまで邪魔して、却ってゲームの広がりを阻害するようなことまでは想定していないわけです。
その中で、今回、大会を主催する上で、明らかに著作権の問題を考えなくて良さそうなものだけでも列挙すれば、ファンとしても、いつ任天堂に目を付けられてしまうのかとビクビクしながら大会を主催する場面が減るため、ガイドラインを制定したのではないか、というのが個人的な考えです。

※巷で言われている「最強の法務部」は、極論でガチガチにディフェンスするだけでなく、実情を踏まえたバランスを取る感覚はあると考えてよいと思います。
※なら、もっと分かりやすくOKラインも書けよと思うかもしれませんが、OKなんて一度公式で書いたら、勝手に解釈広げられて著作権侵害されまくる可能性もあるわけなので、書けない事情を察してあげてください。
※著作権の話も含めた各Pointの詳細な説明は、また時間があれば、どこかのタイミングで書くかもしれませんが、約束はできないです。

まとめ

大枠上記のようなことを考えると、個人的には、今まで大会の報酬としてイラストを提供することができていた実情を考えると、本ガイドラインが出たからって無理に中止する必要まではないのではないかな、と思います。

勿論、本ガイドラインを遵守しておけば、安パイなのは間違いないので(数少ない「著作権侵害を主張しない」との言質を取れるわけなので)、大会の主催者として安全策を取るのであれば本ガイドラインに一切違反しないよう徹底遵守すべきです。
この辺りの進め方は、主催者の考え方や、界隈の動向(本ガイドラインが神格化すれば、本ガイドラインに該当しない大会を叩く自警団も出てくるでしょうし)も踏まえて、大会主催者自身が決めていくとこかと思います。

※この記事は、普通に優勝者にイラスト渡すくらいなら許してもいんじゃね(許してやれよ)って考えをもった個人が、イラスト提供を許容するための解釈を無責任に展開しているものです。この解釈とは反対に、イラスト提供を不可とする解釈もありますので、大会主催者は、その考え方も理解して検討がよいかもしれません(機会があれば紹介します)。















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?