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三鷹・武蔵野エリアの温故知新をつくる

東京・三鷹を拠点に、旅行業のノウハウを活かしながら「三鷹オーガニック農園」を運営し、2021年には「三鷹オーガニック農園」内に、ぶどう棚を活用した「あつまれ!!ぶどうの森グランピングフィールド」をオープン。ますます旅と農の融合が生まれ始めている中、note第二弾の記事は、三鷹・武蔵野エリアの可能性や地域と連携していく展望についてお話をさせていただいています。
まずは、里と農をデザインする建築家として活動し、三鷹オーガニック農園のグランドデザインを担当している、湊泰樹(みなと・たいき)さんのお話を聞きました。

湊さん(以下、湊) もともと僕は、空間のデザインをやってきました。「森をつくるデザイン」や「里山」をキーワードとした、木を使った建築設計の仕事です。森の中に入ると、一次産業・林業の世界に出合います。おがくずを使って、動物の“落とし物”を堆肥化し、農業につなげる流れがだんだん見えてきたんです。林業や農業を担う一次産業の人たちが連携するだけで、もっといい景色がつくれるんじゃないか。それをライフワークとしてやっていこう、と動いていたら、なぜか自分でもお店をやることになっていました(笑)。

それが、武蔵野市吉祥寺にある「Taihiban(タイヒバン)」だ。おがくずで発酵をさせた堆肥が店の真ん中に鎮座する、ちょっと変わった飲食店。乳酸菌を混ぜた飼料を食べる牛のお肉や、この“すごい堆肥”を使って育てた野菜、小麦を扱っている。「発酵」や「腸活」という言葉がいまのように広まる前から、だ。

湊さんは東京と富山の二拠点で設計と食の仕事に携わっている

はじまりは、2019年。オーガニックや自然食、発酵文化を牽引する「タイヒバン」に、「三鷹オーガニック農園」オーナーである金子晃さんが突撃訪問したことにあるそうで……。

 金子さん、本当にいきなり来ましたね。「ここはタイヒバンですか?」って。「タイヒバン」の扉を開けながら言ったので、第一印象は変な人でした(笑)。「私は農家です」って言って名刺を置いていったんです。当時、僕はすでに富山でぶどう園をやっていたので、生産者さんは大事にしようというポリシーがありました。それで、追って電話をしたんです。

金子 タイヒバンの噂はこちらにも聞こえて来ていましたからね。その1本の電話から、湊さんに「三鷹オーガニック農園」に来てもらうことになりました。うちのブドウの樹を見て「生育状態がいいのは土がいいからだ」と言っていただき、富山のぶどう園で培ったノウハウを伝授する「ぶどうの学校」を開校することになりました。講師としても魅力的ですが、全体を俯瞰して見てくれるので、現在では「三鷹オーガニック農園」のブランディングやコンサルティングもしていただいています。

 本当にここ、土がすごくいい状態なんです。金子さんの家は代々薬を扱っていて、畑では薬草を育て、蔵を建てて漢方薬を保管していました。金子さんの代になり、そのチャレンジングな農業経営によって、馬がいたこともありました。このナイアガラ(ブドウの樹)のある場所が馬小屋になっていて、馬のフンによって、土壌環境がさらによくなったんだと思います。

金子 それでも、父の代では農薬を使っていましたね。農薬をまいたあとは、父の具合が悪くなるんです。そんな苦い思い出にも背中を押されて、無農薬の畑に完全に切り替えました。
馬の事業もいいと思ったんですけどね、事情により馬はあきらめました。三鷹から馬術でオリンピック選手を出そう!という夢を持っていたんですけど(笑)。

 長い間、土にとってストレスになるようなことが少なかったんですね。ブドウ棚を作って本格的に栽培をはじめると、ぶどうがすくすく育ったんです。5年計画の3年目なのに、なんとワインができちゃいましたからね。

金子 「自分で育てたブドウでワインを作る」というのが「ぶどうの学校」のメインテーマですからね。実をつけたブドウを見て、我慢しきれずに作っちゃった、みたいなところもありますが(笑)。思いの外、美味しいワインができてよかったです。やっぱり私は運がいいのかもしれない…!

都市で農園をやるということ

「三鷹オーガニック農園」のあるこの土地の歴史が、2人の会話を通じて見えてきた。ただ現在、都市農園を経営する金子さんには、一筋縄ではいかない事情もあるようだ。

金子 生産緑地の指定を受けた農園では、慣行栽培という化学肥料や農薬を使用する野菜づくりが主流でした。畑には年中作物が植えてあって、どんどん収穫をしなければいけない。「生産緑地」って言うくらいですから。でもそれは、土を酷使することだと思うんです。豊かな土づくりに必要なのは、土を十分に休ませることなのに。
うちの畑は昔から落ち葉をすき込んで、昆虫や微生物に働いてもらってます。そうやってできたふかふかの土を掘り返すと、ミミズやカブトムシの幼虫がたくさんいますよ。
幸いなことに、近年はSDGsの広まりとともに有機栽培を推進する動きもあるみたいで。やっと、時代に足並みをそろえられるようになってきたということでしょうか。

 金子さんのやっていることは三鷹・武蔵野の原風景を守る活動でもあると思うんです。
都市農業ひとつとっても、栽培方法や土地のこと、後継者のこと……課題はたくさんある。けれど、そこは「オセロ」に見立てて考えるんです。問題ばかり考えていると、オセロの黒い面がどんどん増えていくだけ。それを今日明日で解決してすべてを真っ白にひっくり返すことはできません。だけど、最高のタイミングで一番パワーのある白をどこにおくか、の勝負はできる。
その場のいいところを見つけて、デザインの力で伸ばしていく。それをくり返していくうちにこのエリアに温故知新、原風景も大切にした新しい風景が作れると思っています。

農園と観光をまぜあわせた新たな拠点に

旅行会社「旅倶楽部」を立ち上げて観光業界を走り続け、その経営目線で実家である「三鷹オーガニック農園」を営む金子さんに、今後の展望を聞いた。

金子 たくさんあります! 貸し農園やキッチントレーラー、グランピング事業などは、それぞれ枝葉なんです。最終的には、この場所を三鷹の観光事業の拠点にしたいと思っているんです。
三鷹・武蔵野エリアには、深大寺をはじめ、歴史もストーリーもあるお寺がたくさんあります。太宰治のお墓はもちろんのこと、知る人ぞ知る新選組・近藤勇の実家があるのもこのエリア。地域のお年寄りしか知らないような観光スポットもいっぱいあるんです。それを現代版にブラッシュアップして。魅力ある観光名所としてご案内したい。専門のガイドさんにツアーしてもらって。いいでしょ。
集合場所は「三鷹オーガニック農園」です。ここを、みんなが立ち寄れる地域の空港にしたいんです。2時間ほど滞在してもらって、ここにあるコンテンツを好きに楽しんでもらいたいですね。倉庫を農園レストランにしてごはんを食べるのもよし、ブドウ棚の下ではBBQやピザ作りもできます。
湊さんも言ってましたけど、都市農業の問題点にとらわれて悲観するよりも逆手にとろうと思ってます。
観光屋として、農園経営者として、サービスと事業を一体化させていきたいなと思っています。

農園レストランには空港の待合室のような電光掲示板を置く、地域の観光協会やタクシー・バス会社との連携も……と、金子さんからは次々にアイデアがあふれてくる。
彼にとって、「観光」はなくてはならないキーワードのようだ。
「観光との組み合わせによって、農業はもっと面白くなるはず」と金子さんは言う。農業の外の世界でがんばってきた人だからこそ、見えるものがある。
そういえば、湊さんが言っていた。
「いろんなアイデアを出して、最終的に判断するのは金子さん。その経営判断がなかなか面白いんですよね」

たしかに、アイデアを出して行動するまでが早いんです、金子さん。
次の章では、金子さんの「やりたい!」がつまった、グランピング事業「あつまれ!!ぶどうの森グランピングフィールド」を取材。ここで実際に行われている野菜の収穫やピザ作り、BBQや焚き火を筆者が体験しました。
つづく。

Text by Azusa Yamamoto
Photo by Taro Ikeda
※この記事は東京観光財団「Nature Tokyo Experience」のプロジェクトの一環で制作いたしました。


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