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「悪い円安」について考える

アメリカでインフレが進みFRBの量的金融緩和が縮小に転じたことを受け、急速に円安が進んでいます。2022年4月28日には一時130円台となり、5月後半でも127-128円/ドル程度となっています。

円安の原因についてはいろいろなエコノミストがいろいろなことを言っていますがリーマンショック以降は為替レートは相対金利差に動かされる傾向が明らかなので、アメリカの金融緩和縮小が円安の主要な要因でしょう。ただし、これがどこまで進むか落ち着くかの予想は非常に困難であろうと思いますし私は予想屋ではないのでそういう話はしません。

円安は普通は日本のような貿易立国にとってメリットが大きいとされるのですが今回の円安では「悪い円安」だという論調が強まっているようです。主張の内容も論者により細かい違いはありますが賃金が上がらない割に物価が上昇している様子をみてそういったことを言っている向きが強いのではないかという印象を受けます。

しかし、物価上昇についてはドル高になっているアメリカに比べてずいぶん穏やかですし円安よりもエネルギー価格の上昇の影響の方がはるかに強いのが実情です。5月20日に総務省が「2020年基準 消費者物価指数 全国 2022年(令和4年)4月分」を公表しました。総合指数は前年同月比2.5%の上昇(前月比(季節調整値)は0.4%の上昇)、生鮮食品を除く総合指数(コア)は前年同月比2.1%の上昇(前月比(季節調整値)は0.2%の上昇)、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコア)は前年同月比0.8%の上昇(  前月比(季節調整値)は0.2%の上昇)でした。上昇幅の過半はコアの上昇によりますからエネルギー価格の影響が大きいと分かります。

エネルギー価格の上昇は円安の影響もあるでしょうが、それ以上に国際価格(ドル建てでの価格)が大きく上がっていることが原因ですから円安がなくてもかなりの程度上がっていたはずです。生鮮以外の食料価格や家電製品なども上がっているようですがこれもウクライナ戦争の影響による物資不足や日本以外の世界各国におけるコロナ規制の解除に伴う世界的な需要増による世界的な原材料コストの上昇の影響が大きいのではないかと思われます。

悪い円安論をいう論者は日銀の金融緩和をやり玉に上げて金融緩和の縮小が必要だというような結論に向かうことが多いようです。一般に金融緩和は物価を上昇させ金融引き締めは物価を下落させることになっているので金融引き締めが解決策になるという論法なのでしょうが果たして本当にそうでしょうか。

アベノミクス以降の量的金融緩和にもかかわらず日本経済はデフレ脱却できていないと言われています。その原因は諸説ありますが日本独自のデフレすら日銀の金融政策で脱却できなかったのに海外に主な要因がある世界的物価上昇を日銀の金融引き締めで抑えられるというのはちょっと信じられない気がします。

そもそも経済学の理論において金融引き締めで物価が下がることになっているのは金融引き締めが景気を冷え込ませるからです。物価上昇の原因が国内の景気過熱による人手不足だといなうなら景気を冷え込ませるのが対策になりますが別に日本で景気が過熱しているわけでもなくコロナ禍の影響で未だ経営が苦しい企業も多数ある中で金利を上げたら景気が本格的に悪化してデフレに逆戻りする可能性もあり、インフレよりデフレの方がはるかに恐ろしいことを学んだはずの日本経済においてこのタイミングで利上げすることは自傷行為に等しいのではないでしょうか。

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