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長期的な物価の変動要因について考える

昨年1年間の消費者物価の動向をみると前半は消費税の転嫁による上昇があったものの原油価格の下落の影響で上昇が緩和されていました。また後半になると統計上は前年同月比における消費税の転嫁の影響が消えます。さらに原油価格の下落に起因する国内のエネルギー価格の下落、天候要因による野菜価格の下落、Go Toトラベルの割引が統計上は物価下落として把握されることに起因する下落があり前年同月比でみた物価が落ち込んでいました。これらの要因は外的なものだったり政策的なものだったりしますが基本的に短期的又は一時的な要因です。

他方、生鮮食品とエネルギーを除いた物価指数(コアコア)をみると昨年は0.2%くらいのわずかな上昇であったようで大局的にみれば変動がほとんどなかったということです。

現政権は安倍政権の考えを引き継いでデフレ脱却を目指していますし、日銀も2%の物価目標を掲げています。この場合の物価は短期的又は一時的な要因ではなく大局的にみた物価なのでコアコアの動きが重要です。

日本ではバブル崩壊以降長期デフレがつづいたとされ、アベノミクスでは「もはやデフレではない」という状況を作り出したことになっています。他方、リーマンショック後は先進国はどこも低インフレといわれるようになっていて日本もこの低インフレの状況から脱することができていないので「デフレ脱却は道半ば」ともいわれるようです。

ミクロ経済学の教科書では財の価格は需要と供給の法則で決まるとされますがここではいったんそれを離れて現実に物価がどうやって決まっているのか考えてみます。

消費者物価の構成要素を考えると家電製品とかあるいは生鮮食品以外の食料などは輸入することができ、現に店には輸入品があふれています。つまり物価には貿易されている財と性質上貿易があまりされていない財があります。工業製品や食料などの貿易財の価格は最も生産原価の低い国の価格が参照され、物流経費を除けば価格は世界的に同じような水準になると考えられます。つまり日本のマクロ経済の動態はこれに影響を与えられないので日本が一生懸命に金融緩和などをしてもこれらの貿易財の価格が上がるとは思われません。

人間の生活に必要なものは衣食住といわれます。住については貿易できませんので国内要因で価格が決まるはずです。住の価格の代表と言えば家賃でしょう。家賃水準は地価に連動すると考えられます。バブル期のような開発ブームが去った現在、土地の需要は実需、すなわちお金を払ってもその土地に住みたい人の潜在的な数で決まっていると思われます。日本は移民をほとんど受け入れてこなかったため主要先進国で唯一人口が減っていますから需要は長期的に低下していると思われます。バブル崩壊後日本の地価は長期的に下げ続け、比較的最近になって下げ止まってきて、コロナ禍の直前には一部都市圏で再び上昇していました。これはインバウンドの需要がけん引しているのではないかともいわれています。

家賃が上がらないのは庶民にとってはいいことですが、デフレ脱却という観点からみれば地価が上がらない国ではインフレ率は低くなると考えられます。直接の効果だけでなく、商業施設の賃料が上がった場合は営業コストが上がるため商品・サービスの販売・提供価格を押し上げる効果もあります。

ヨーロッパでも移民受け入れの波が止まってきておりイギリスやフランスでも人口増加率が低下しつつあるようです。こうしたことが世界の低インフレ化にある程度影響しているのかもしれません。

また貿易できない消費として外食など対人サービス業があります。先進国ではこうした部分の消費が大きくなっていますのでもし物価を上げたいのであれば、ここを引き上げるのが一番の近道ではないかと思われます。ところがこうした業種の価格というのは長期的にみると需要と供給の法則で動くというより賃金水準に連動しているのではないかと思われます。対人サービス業の経営収支構造を考えればこうしたサービスの付加価値は人件費とほぼ等しくなるからです。

対人サービスの収支は(客単価×キャパシティ×回転率)ー(人件費+店舗維持コスト+変動費)です。これをみればサービス業で技術革新で生産性を上げるのは容易でないと分かります。サービス業が自力で技術革新して賃金を上げられないのであればサービス業の付加価値の向上というのは多くの場合、人件費の上昇を価格に転化する形でおこなわれます。これはサービス価格が人件費と連動して上下するということであり、長期的にみるとサービスの価格は需要と供給の法則によって変動するのではなく最低賃金や平均賃金の動向によって受動的に動いているのではないかと思われます。

要は人件費の上昇を価格に転化できるかどうかにかかってくるわけです。消費税みたいな話を除けば、価格転嫁の許容度は消費者のフトコロによります。価格転嫁が進むためにはサービス業以外の産業が賃金相場を引き上げてくれなければいけないのでしょう。

昨年はコロナ禍の影響により残業代が減ったり、ボーナスが減ったり、パートやアルバイトの仕事がなくなったりした家庭も多かったと思われます。定額給付金は消費面では家電に好影響を与えたようですが、外食とかサービス業は来客も減り価格を上げることなんか考えられない状況でした。結果として昨年のコアコアの物価はほとんど動かなかったということでしょう。

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