掌編 技術家庭の先生

技術家庭の、相沢先生が好き。
先生は大学まで野球をしていたらしく、今も、野球部の顧問をしてる。お尻ががっちりして、背が高い。

家庭科の授業で、冷やし中華を作ることがあった。薄焼き卵が上手に出来て、褒めてもらった時から好き。本当は、もっと前から好きだったのかもしれない。それで、きれいな薄焼き卵を見て欲しくて、頑張ったのかも。
「吉田うまいな」
出来上がった薄焼き卵を、フライパンからお皿にのせるのを見て、先生はそう言った。

相沢先生って、顎が少しだけ割れてる。私、そういう男の人、好きじゃなかった。友達も、相沢先生なんて絶対無理って、首をブンブン振る。美術の大滝先生のほうがいいじゃんって。でも、大滝先生は細いし、頼りなくて。

私はバレー部の副キャプテンで、生徒会もしてる。
相沢先生は、生徒会の担当でもある。放課後遅くまで残って、生徒会報とか掲示物を作って、先生に見せに行ったりする。
「吉田はやいな」
先生は、そう言ってくれる。

私の髪は肩までの長さで、ギリギリ結べるくらい。それをこの前、初めて結んで学校に行った。生徒会の朝の活動で、私は昇降口に立って、登校する生徒たちに、「おはようございます」と挨拶をしてた。そしたら、相沢先生が来た。先生は私のこと、横からしばらく見てた。何も言わなかったけど、たぶん、ちょっと可愛いなって思ったんだろうな。

私が相沢先生に言われて一番嬉しいのは、
「吉田は面白いな」
かな。それを聞くと、全部が全部楽しくなる。
相沢先生と歩きたいな。あの腕にぶら下がってみたい。私、いくらでも面白いこと言うから。相沢先生の目を覗くと、ずっと深いところに行けそう。私、相沢先生とそこに行きたい。

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