小説 メルヘン #4

リサはおかめさんに似ていて、柔らかい。柔らかくて白くて小さい。リサはお客さんに人気がある。私は、色白じゃないし、大柄。でも、私を指名してくれる人も、少しはいる。 

細野さんは、私に会いに来てくれる人。
「私、股関節が生まれつきおかしいみたいで、脚をあんまり広げられないんだ」
ソファーに座った私の脚を開いて、上に乗っかるようにしてキスをしたりおっぱいを舐めたりしてくるお客さんがいると、いつもそう伝える。残念な顔をされると、「でも、このぐらいまでなら平気だよ」と限界まで開けてみせる。お客さんは、「十分十分」そう言って、顔を股に突っ込んでくる。

細野さんは違った。彼はまず、受け身なほうで、だから股関節が痛いようなこともしなかった。ただちょっとした会話の流れで脚のことを打ち明けると、「へえ、そうなんだ」と観察するように私の股関節を見て、私がいつものように開いてみせると、「いいよいいよ、無理しないで」と言って、膝に手を優しく当ててくれた。細野さんは、たぶん公務員。なぜなら、彼が持っていた紙袋を壁のフックにかけた時、中に入った作業着の刺繍が見えたから。あれは、市のマーク。それだけなんだけれども。三十六歳で、一つ年上の奥さんと、それから娘さんが一人いることは、話をしているうちにわかった。娘さんは今、小学四年生。なんか反抗期っぽいんだ。俺のことが嫌いみたい。そんなことないですよ。たぶん、心の中では好きなんですよ。
「忘年会の流れで、みんな行くっていうから」
それで、自分もピンサロに付いて来たのだと言った。初日は、三十分くらいをお話に費やし、残り十分くらいになって慌てて精子を出していった。女の子とただ話すのが好きなお客さんもごく稀にいるから、細野さんもその口なのかなと、私は油断していた。いつもは、バタバタとイカせたりしないように、相手の趣向や感度、健康状態、あとはどのくらい酔っているのか観察して、時間配分を考え仕事をしている。でも、細野さんとは、すっかりおしゃべりしてしまった。

「ナナちゃん、いつもの彼」
待機室のカーテンをめくり店長が教えてくれる。にやけてしまう。そろそろかなあ、と期待しているのだから、なおさらこそばゆい。
「ご指名ありがとうございます」
私は、踵の低いサンダルを履いていて、ペタペタと足音がするピンサロ嬢だ。
「おつかれ」
細野さんは、紺色のジャケットを脱ぎながらそう言い、「また来ちゃった」とにっこりする。
「すごく嬉しい」
テーブルに、ビールの小瓶とグラスを二つ置く。それから脇の下に挟んだポーチをソファーに放り、ジャケットを受け取るとハンガーに掛ける。そのまま立ったまま、座っている彼に覆いかぶさる。硬い髪が唇や顎にあたるし、細野さんの頭の匂いがする。深呼吸すると、細野さんは私の身体に手を回し、腰と背中のあたりを上下に撫でてくれる。

細野さんのタマの部分を舐めてあげると、彼は、声を出す。ハァみたいなフンみたいなウンみたいな。私は舌を平にして面を広くとり、摩るようにずっと舐めてあげる。そうすると、自分にはあるはずのない、私のタマらしきものが、ウズウズと気持ちよく騒ぐ。そういうことは今までになく、とても不思議に思うのだった。

               つづく

# 5 メルヘン

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