![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/100242299/rectangle_large_type_2_22017e537770c07b58ac226844a7c4dd.jpeg?width=1200)
【特別公開】絶望的状況で響く、ブルースが教える人生訓/アルバート・キング〈ドラウニング・オン・ドライ・ランド〉
好評発売中のブルース&ソウル・レコーズNo.170 特集「ブルースこの人この一曲」。本特集では、広く知られる人気曲、歴史を変えた重要曲、静かに愛される隠れた傑作など、ブルース史に残る33曲を選出。これからも聞かれ続けてほしいブルースの名曲を紹介しています。
今回は、33選の中からモダン・ブルースの代表格、アルバート・キングの〈ドラウニング・オン・ドライ・ランド〉を特別公開。絶望的な状況の中で歌われる胸を打つブルース、本誌読者にはどのように響くでしょうか。また、Spotifyでは本特集で取り上げている楽曲をまとめたプレイリストも公開中ですので、本誌を片手に楽しんでいただけたら幸いです。
絶望的状況で響く、ブルースが教える人生訓
アルバート・キング〈ドラウニング・オン・ドライ・ランド〉
最悪の事態で身動きが取れない絶望的な状況を“陸地で溺れる(drowning on dry land)”と表現したこの曲は、ブルースが、ある者には的確な助言となり、ある者には苦しみを分かち合うための慰めとなることを教えてくれる。
歌の主人公は自分の力ではどうしようもない苦境にある。後戻りもできない。親父には生き急ぐなよと忠告されていた。母親には子犬の寓話を通して、目先の小さなことに気を取られて大きなものを失わないようにと言われていた。それなのに……。
テネシー州メンフィスのスタックス・レコードに所属していたアレン・ジョーンズとミッキー・グレゴリーが書いたこの曲を最初に吹き込んだのは、アルバート・キングだ。1969年5月にシングル・カットされた。A面(前半)はヴォーカル入り、B面(後半)はたっぷりとギター・ソロを聞かせるインスト。イントロから張り詰めた緊張感があり、歌い出す前のブレイクがそれをさらに高める。アルバートの抑えた歌は主人公の打ちひしがれた心情をあらわし、それとは対照的に得意のダイナミックなチョーキング(ベンディング)を生かしたリックを繰り出すギター・ソロは激しい。それが主人公の心の内を描いているのか、あるいは世間の厳しさを映し出しているのかは、聴く者の想像力しだい。
![](https://assets.st-note.com/img/1678767274618-qDRCbN6kTU.jpg?width=1200)
ホーンもストリングスもここでは無用。スタックスのハウス・バンドによるリズム・セクションだけをバックにしたことで、主人公の孤独感が増している。プロデュースを担ったアル・ジャクスンJr.のハイハットは淡々とビートを刻み、主人公に残された時間が刻々と減っていくのを現しているかのようだ。ギター・ソロ後のブレイク部では、ピアノが静かに鳴らされ、寂寥が覆いかぶさる。
道を踏み外した主人公の若者は絶望的な状況にいながら、そこでメソメソと泣き言を言ったりはしない。今はこんな状況さと、現実を受け止める。それこそがブルースという音楽が困難な社会の中で生きる知恵として聴かれてきた理由でもある。現実を受け入れること。まずはそこからなのだ。
ギターにブルースを語らせたアルバート・キングは、50年代から60年代にかけて熟成されていったモダン・ブルースを代表する存在だ。1923年4月25日、ミシシッピ州インディアノーラ生まれ。本名アルバート・ネルスン。本格的に音楽活動を始めたのは20代後半からで、セントルイスを拠点に活動するようになった1950年代末には自身のスタイルを確立し、61年にはキング・レコードから発表した“Don’t Throw Your Love On Me So Strong”で初の全国ヒットを記録した。1966年にメンフィスのスタックスと契約、同レーベルの作品はロック・ギタリストたちの手本ともなった。スタックス倒産後もアルバムを順調に出し続けたが、1992年に69歳で世を去っている。
名演をいくつも残したアルバートのスタックス期の中でも“Drowning On Dry Land”は最良の曲のひとつとして知られる。全国ヒットはしなかったが、ジュニア・パーカー、アール・ゲインズのヴァージョンはシングル・カットされ、ジミー・ジョンスン、ビッグ・モジョ・エレムといったシカゴのブルースマンのレパートリーにもなった。
![](https://assets.st-note.com/img/1678766938326-IWtBnIxoTZ.jpg?width=1200)
カヴァーの中で特筆すべきは、1973年のO.V.ライトのものだろう。O.V.は歌詞を一部変更しており、それが非常に興味深い改変なのだ。アルバート版の主人公がただ現実を受け入れるのに対し、O.V.版は救いを求める。このまま終わりたくない、誰か助けてくれとすがり、神よ、お慈悲をと祈るのだ。この改変をO.V.自身が行ったのかはわからない。だが、ゴスペル・シンガーとしてキャリアをスタートし、最期もゴスペル・シンガーへと戻っていったO.V.の思いが込められているように思える。アルバート版もO.V.版も主人公がその後どうなったかは描かれていないが、この2つのヴァージョンにはブルースとゴスペル、それぞれが示す生き方の違いが見えてくる。◾️
文:濱田廣也
![](https://assets.st-note.com/img/1678766984969-AsQKqJ1ZKW.jpg?width=1200)
(Howard F. Gregory, Allen A. Jones)
Stax 0034 [1969]
セッション・データ
1968年 テネシー州メンフィス録音
Albert King (vo, g),
Booker T. Jones or Isaac Hayes (p),
Steve Cropper (g),
Duck Dunn (b),
Al Jackson, Jr. (ds)
![](https://assets.st-note.com/img/1678767136688-dJPuXCPmWr.jpg)
LP (Stax STS 2010) 1969
“Drowning ...”の他、“Killing Floor”、“Sky Is Crying”、“You Threw Your Love On Me Too Strong”など、聞き応えあるストレート・ブルースを収録した一枚。
ブルース&ソウル・レコーズ No.170 特集「ブルースこの人この一曲」は好評発売中です。お近くの書店やオンライン書店からぜひお買い求めください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?