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『マイク・トークマンについて語りたい』【2020年NYY展望】

 厄払いともいうべきか,衝撃のニュースが飛び込んできた。「エルズベリーとの契約解除」である。14年から7年168億円の不良債権として鎮座したベテランは契約満了を待たずしてヤンキースから足切りされた。一昨年までであればスターター要員,プラトーン要員としてなんとか出場を果たしていたものの怪我などによってここ2年はまさかの出場ゼロ。皮肉にもヤンキースファンの中で彼の解雇を惜しむものは一人も見受けられなかった。

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 見方を変えれば,彼をロースターに入れなくてもよいほどにヤンキースの外野陣の顔ぶれは質が向上している。若き主砲であるアーロン・ジャッジに17年MVPのスタントン,昨年飛躍を遂げたアーロン・ヒックスにベテランのブレット・ガードナー(今オフFAも再契約が濃厚か?)。更には今季途中加入のキャメロン・メイビンとマイク・トークマンがバックアップとして備えていた。
 内野手の陣容も同様に豊富であり,今季のア東地区優勝を支えたのはバックアップ選手と言っても誇張にはならないだろう。

 今回のnoteは,そんなヤンキースの外野手の中でも「急成長選手」として名乗りを上げた「マイク・トークマン(Mike Tauchman)」について存分に語らせて頂きたい。来シーズンを迎えるにあたっては,他球団ファンも名前を覚えておいて損はないだろう。

①ヤンキース入団までの経歴

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 まずは彼のヤンキース入団までの経歴をざっと紹介していく。

 トークマンは2013年にドラフト10巡目でコロラド・ロッキーズに指名されてプロ入り。高いコンタクト能力と選球眼でマイナーを順調に駆け上がり,17年には満を持してのMLBデビューを果たす。残念ながら17・18年共に期待に応えることはできなかったが,それでもAAAでの成績は目を見張るものがあり,それだけにCOLファンの中でも19年シーズンでの飛躍を待望してた人はいるのではないだろうか。

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 そんな最中,ヤンキースではスプリングトレーニング中にCFのアーロン・ヒックスが全治2か月の故障をしたことで開幕が絶望的に。そこで白羽の矢が立ったのがロッキーズ傘下で伸び悩んでいたトークマン。
 ヤンキースはすぐさまトレードを敢行し,トークマンを獲得。開幕ロースター入りさせたのだ。開幕2試合目で守備固めデビューを果たすと序盤は怪我人続出もあって出場機会が増加していくこととなる。

②センセーショナルな2019年の飛躍

 もっとも,4月・5月のトークマンは打撃だけ見ればCOL時代の過去二年と変わらない低調な数字であった。「レギュラーを勝ち取った」というよりも「怪我人続出によるお零れをもらった」だけの選手。ついに5月中旬にはマイナーに降格されてしまったのだ。

 しかしここから一か月後,意外な展開が起きる。当時第一線でヤンキースの打線を引っ張っていたクリント・フレイジャー(AVG.283 11HR OPS.843)が突如マイナー降格。理由はなんとも「守備がお粗末だから」というもの。代わりに昇格したのがそう,トークマンである。後述するがトークマンはヤンキース移籍後に守備指標が軒並み上昇しており,4月と5月の働きがちゃんと評価されていたのだ。(守備についてはいずれ別noteで詳しく)

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 この守備力から掴んだ千載一遇のチャンス。これを生かしたことでトークマンは大きな飛躍を果たしたのである。

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 決して毎試合スタメン起用なんてこともなく,チーム状況によってその都度に打順や守備位置,起用方法が変えられてきた中でこれだけの成績を残せたのは賞賛に値するだろう。

 ではなぜトークマンはこれだけの結果を残すことが出来たのだろうか。今回は打撃のみに焦点を当て,軽くまとめてみる。

③「3つの変化」からみる打撃覚醒

 先ほどお話した通り,トークマンの打撃は4月・5月ともに低調であったのだが,最終的にはアベレージや本塁打数を破竹の勢いで伸ばしていった。彼の転機はいつだったのだろうか。月別成績から紐解いていこう。

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 パッと目につくのは好調期の7月ではないだろうか。出場試合数こそ他の月より劣るもののAVG/OBP/SLG/OPSのスラッシュラインは今でも二度見してしまう。だからといって7月の一過性な活躍だけでスタッツを伸ばしたということではないのは図の後半戦成績でも分かるだろう。(9月は故障による機会減)

 後半戦,ひいては7月といえば,守備難のフレイジャーと入れ替わりでMLBに再昇格を果たした直後の月である。前半戦と後半戦ではまるで別人のように姿を変えたトークマン。様々なデータと共に変化を覗いてみよう。

ア.打球の質の変化

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 これは前半戦と後半戦の打球速度・打球角度・打球飛距離の平均を示したものである。打球速度は88mph帯のまま変化はないが,打球角度は6°上昇し,飛距離も45フィート(約14メートル)伸ばすことに成功している。
 意図してかどうかは別として,打球速度をそのままに打球角度を上昇させることによっていままでゴロボールであった打球をヒットになりやすいラインドライブ性の打球に変化させたことが分かるだろう。

イ.打球方向の変化

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 本図は4月~6月と7月~9月の打球方向割合である。トークマンは左打者であるため,左から順に引っ張り方向,センター方向,流し方向となっている。
 4月~6月ではほぼ均等にフィールドへ打球を運んでいたが,好調な成績を収めた7月~9月は中央から左方向の打球が7%増加。無理に引っ張るのではなく流し打ちを狙う柔軟さも垣間見えた。

ウ.MLBでの実戦経験

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 これは大まかな球種別の打率である。2019年の前半戦までは各球種で得意としているのはOffspeedBallだけであり,FastBallおよびBreakingBallの打率は総じて低調な数字を残している。

 ここで注目していただきたいのが2017年と2019年前半の球種別打率である。比較してみるとどちらも全く同じような数字になっており,差異があるとすれば打数の違いのみ。怪我人続出の今季前半のヤンキースは当時のロッキーズとは違い,トークマンが低調な数字を残しても出場させざるを得なかった。これが奇しくもMLBで実戦経験を積むきっかけとなり,その糧が後半戦の数字となって表れたのではないだろうか。

 特に今まで苦手としていたFastBallとBreakingBallへの対応は群を抜いて向上しており,前半戦114打席の経験の中で対応策を模索できたのではないだろうか。何事も「もし」は禁句であるだろうが,「もしロッキーズがもっと試合に出場させてたら今年の後半のような活躍が出来ていたのではないか?」とも思ってしまうデータである。もっとも,他に選択肢のあったであろうロッキーズと使わざるを得なかったヤンキースとでは状況が兎角異なるため言及は留める。


①,②,③を総括してみると「MLBでの実戦経験を培い,打球角度を上昇させつつ,反対方向への打球を増加させた」ことによって後半戦の活躍があったのではないかという仮説が立てられる。言い方は変だが,「根拠ある成績向上」と見て取れるのではないだろうか。

最後に

 長いオフシーズンも市場が少しずつ盛り上がりをみせる今日。我がヤンキースは目下2020年ワールドチャンピオンを目指し大胆な補強を目論んでおります。ただ,優勝のラストピースに必要なのはコールなどの大エースというよりも,今年で言うところのD.Jラメイヒュー,ジオ・アルシェラやマイク・トークマンなのかなーと思ったり。

 いずれにせよ,こんな形でオフシーズンの間にいくつかnote挙げていければな~と思ってます。



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