私がノルウェーに引っ越した理由:法律編

先日「私がノルウェーに引っ越した理由:文化編」という記事を書きましたが、私が引っ越してきた理由はまだまだ沢山あります。今回は法律に焦点を当てて考えてみたいと思います。

労働者の権利


5週間の休暇(休暇手当あり)

ノルウェーでは年間5週間、つまり正社員(フルタイム)の場合で25営業日の休暇を取る権利があります。会社は従業員に休暇を取らせる義務があります。その間、休暇手当を払うのも会社の義務であり、金額は最低で、前年度の年収の10.2%です。つまり休暇を取る月は通常の月給より多い金額を受け取ることができます。
https://lovdata.no/dokument/NL/lov/1988-04-29-21

病欠 - エゲンメーリングシステム

「Egenmelding」とは自分の意思で、一度に3日間、12ヶ月のうちに4回使うことができる病欠です。その回数内であれば休んでも給料に影響しないという制度です。
https://www.nav.no/egenmelding

傷害保険 - シーケメルディング

Egenmelding では足りないほど体調が悪い場合、「Sykemelding」というシステムを使うことができます。Sykmeldingは医者から発行して貰うもので、必要とされる長さは医師によって決められます。16日以上の場合は国が手当を支払ってくれます。
https://www.nav.no/arbeidsgiver/sykmelding

出産・育児休暇

出産・育児休暇は子供一人につき最長59週間(約1年2ヶ月)取ることができます。その59週は両親で振り分けることができ、例えば母40週父19週や、約30週ずつ取るなどその組み合わせは夫婦で自由に決められるようになっています。
59週休暇を取る場合は、給料の80%、49週取る場合は100%の金額を受け取ることができます。

https://www.nav.no/foreldrepenger

残業、夜勤、日曜日の労働

1日13時間以上の労働、週合計10時間以上、一ヶ月(4週間)25時間以上、一年で200時間以上の残業は禁止されています。
どうしても残業しなければならない場合は、残業分の時給に対して最低でも+40%の金額をもらう権利があります。

21:00から6:00までの労働は、夜勤のみなされ、手当てをもらう権利があります。
法律では時給に対して最低27クローネとありますが、残業・夜勤・日曜祝日の労働全て50%~100%増しという企業が多いです。


法律を知ったところで出てくる疑問は実際にその法律が守られているのか?っということですが、答えは「守られている」です。
ノルウェーでは労働者の権利が日本と比較するととても厳しくArbeidtilsinetという労働監督局が存在し、万が一労働法を守っていない会社があれば、労働者の通報によって簡単にペナルティーを受けたり会社として存続することが難しくなります。したがって労働法を破る会社は比較的少ないのです。

消費者の権利

返品

ノルウェーでは「やっぱり要らなくなった」や「気が変わった」っというような理由でも購入から14日間以内でレシートがあれば開封しても大抵の商品を返品することが出来ます。(食品などは除く)

その根底には消費者が、その価格を払ってでも手に入れたい商品であり、企業側にもこの金額を受け取ればこの商品をあげても構わないというwin-winの取引を理想とする考え方があるのだと思います。

それに付随して(少し脱線しますが)言うと、物価上昇に関しても日本とは違う文化が存在していると思います。

日本ではみんな異様にインフレを嫌う傾向にありますが、ノルウェーでは、上記したように、従業員の給料はこれくらい、仕入れ値はこれくらい、だから価格はいくら、欲しくなければ買わなくて結構!というのは大袈裟なものの、企業側も強気な態度で各設定をしています。他の企業も同様なので、消費者としても高くなったところで買わざるを得ません。そうして従業員の給料もインフレと共に上げていくことが出来るのです。

ここで疑問になるのは、返品が多いと企業の喪失が多いのでは?ということですが、実は「買ってダメだったら返品すれば…」という考えが消費を加速させている実感が私にはあります…

詐欺

ノルウェーにはForbrukerrådetという、消費者センターがあります。2年前帰国した時に日本の消費者センターが必要になった場面がありましたが、日本の場合は自治体によって運営されているようで、地域によってサービスにバラツキがある印象でした。その上ネットで購入したもので、「小さく注意書き」がしてあったので、特に出来ることがないというようなお返事でした。(コロナ明けの帰国にて逆カルチャーショックを受けた瞬間でした)ノルウェーでは上記したように、取引が現物だろうとネットで行われようと企業も消費者も満足の行く取引が出来るよう、手厚いサポートも受けられるし、消費活動に関してのルールが守られなかった場合、Forbrukerrådetが介入してくれます。詐欺の場合も対応してくれます。

支払いが滞った場合

つまり逆の場合にも同じことが言えます。もし消費者が支払いを滞っている場合、請求側はその請求書をInkassoという機関に送ることが出来ます。Inkassoに送られてしまえば、政府が権限を持って請求を続けてくれます。最終的には銀行口座を差し押さえることなどが出来ます。個人的にここまで深刻なケースに陥ったことはないですが、フリーランスの仕事をしていると、なかなか支払いをしてくれないお客さんもいるので、Inkassoの存在は大きいです。

インフレ

働き方(ちょっと脱線)


ノルウェー生活6年目の私としては、対価に対してそれ以上のものを提供しようとする日本の文化はとても素晴らしいものでもあり弱点でもあると思っています。

私は曲がりなりにもマネージャーの仕事をしているのですが、スタッフがみんな日本人の哲学を持って働いてくれたらどんなに楽なことか。。。と日々感じています。「時間通りに出勤する、定時前に退勤しない、制服をちゃんと着る」が出来ないのが当然の社会です。

ここで両極端に見えてくるのは、ノルウェー社会では残業代が出ないと働かないことが常識なので、「誰が無料で働くっていうの笑」「値段以上の技術や労働力は提供しないよ」という”市場”であるということです。会社側も「それじゃあもっと働き者のを雇う。君はいらない!」ということが出来ません(それじゃ会社として労働者から選ばれません😅)

一方で日本の労働”市場”は真逆で、最低限の仕事をする人に対し、対価以上のパフォーマンスを出してくる労働者が多すぎて、それを超えるような仕事をしないと会社から選ばれないという生きずらい社会構造をみんなで作っています。

何が言いたいかというと、給料を上げなくても無限にパフォーマンスを上げてくれる労働者に対して、もちろん企業はできるだけ昇給しないようになっていくということです。

インフレの話に戻る

日本のニュースでは物価上昇をよく生活を苦しめる悪いものとして取り上げられています。ノルウェーでも似たような記事がないわけではないですが、具体的にいうと「今年の昇給率に対して、物価上昇が早すぎる!」という記事の方が多いと思います。ノルウェーでは毎年昇給するのが当たり前で、物価が上がることに文句は言いながらも「今日は寒い」というような、文句は言えどしょうがないもの、自然なものとして捉えてる人が多いと思います。実際に緩やかなインフレは健康的な経済成長と言えると思います。対して日本のようにみんなでインフレを押し止めていると、どんどん不景気になっていってしまうのではないでしょうか…

というわけで、毎年一定期間で最低賃金を底上げし、緩やかなインフレを受け入れながら昇給していくノルウェーの経済対策が好きです。



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