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あのたび -カナーンゲストハウス-

 カンチャナブリはバンコクから3時間ほどの静かな田舎町。映画『戦場に架ける橋』の舞台となった所である。恥ずかしながらこの映画のことは知らない。坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』という曲は知っているのだが。

 バンコクから南へというとパタヤのビーチに行く人が多い。当初ボクも地名も知らないこの町に来る予定はなかった。東南アジアを旅行するなかですれ違う日本人女子がみなここをすすめるから来たのだった。特にカナーンゲストハウスのオーナーが親日で優しく過ごしやすとのことだ。

 バスを降りてそのターミナルの近くにゲストハウスがあると聞いていた。場所を近くに居た人力車風の人の聞いたら乗せていってやるという。いや歩いていける距離だと知ってるから方向だけ教えてほしいのだ。というとゲストハウスまで案内してくれた。

 オーナー女性のJOYが出てきて、その人力車屋にいくらかお金を握らせる場面を見た。コミッションだ。客を連れてきたらその分け前を払う契約になっているのだろう。これを見てしまった!と思ったが遅かった。

 そういえば、この宿を紹介してくれた女子たちは絶対自分で宿にたどり着いてくださいと言っていた。なんのことかと思ったらこういうことだったのか。ボクが自分で探してたどりつけばJOYさんは余計なコミッションを払う必要はない。その分宿の収入になる。しかしボクが案内されて連れてこられたことで、おそらく50Bほど宿の収入が減る。ボク自身の財布の中身が減るわけではないのだがなんか悔しい。
 バスを降りてボクはおおまかに東西南北の方位だけ把握してなんとなくどちらに歩けばいいかがわかればよかっただけなのに、質問したことで案内させてしまったのだ。申し訳ない
 
 しかしそんなことは日常のことでJOYさんはチェックインする前から陽気に親切にめちゃくちゃしゃべりはじめる。片言の日本語をまじえて。

 宿は木でできたロッジという感じでこじんまりとしている。開け放たれたロビーも木造りでクッションがいくつか置いてある。土足禁止できれいなので寝転がれるのがまたいい。日本のマンガもたくさん置いてある。ゴルゴ13にドラえもんにラーメンマンとかいろいろ。暑い昼間は外を歩くのがしんどいのでよい暇つぶしになった。夜は蚊が多いのが難点だがJOYさんが蚊取り線香を付けてくれる。

 毎夜、集まった旅人同士で酒盛りだ。確かにこんなに雰囲気よく飲めるところは他にないかも。酔いつぶれても自分の部屋で寝ればいい。元自衛官の青年は日本一周したあと世界一周に出発。まだ2週間目だが、大便のあと尻を手で拭くのに慣れたという。順応力が桁違いだ。

 ボクもその話を聞いて、この時からトイレットペーパーを使わずに尻を手で拭くというのを始めた。タイのトイレには便座の脇にホースが付いていて、先のレバーを握ると勢いよく水が噴出される。右手でホースを握り尻に当て、左手で肛門あたりをゴシゴシと吹く。さっぱりキレイだ。

 濡れたままの尻は気にせずそのままパンツを穿く。パンツも濡れてしまうのだが、暑い南国なのでしばらくすると乾く。最初は嫌悪感しかなかった。左手をいくら石鹸で洗ってもキレイになった気はしない。でもトイレットペーパーのゴミは出さないしエコで楽だし何日かしたら慣れた。順応できるものだ。

 これまで、宿のごはんというのはローカルより高い気がして頼むことはほぼなく外に出て食事をしていた。がこの宿のJOYさんの親切さに恩返ししたくて、夕飯はイエローカレーやグリーンカレーを頼んで食べた。いつまでもこのゲストハウスがつぶれずに続けばいいなという思いをこめて。味もJOYさんの丁寧さがあらわれたかのような優しい辛さで美味しかった。

 観光は往復42Bで滝へ行ったり、自転車を借りてなんとかCAVEへ行ったりや映画に出ていた鉄道橋を歩いて渡ったり。宿の近くのあいそいい女の子のシェーク屋がよくて毎日通ったりもした。

タイルート

(つづく)


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