見出し画像

ひとり「人生ゲーム」②

 様々なイベントを経験し、億万長者を目指すボードゲーム「人生ゲーム」。本来であれば2人以上で楽しむゲームを、孤独な筆者が独占的にプレイした。※本稿は「ひとり『人生ゲーム』①」の続編である。大したことはないが、前編を読まれると、話が分かりやすくなるかもしれない。(文:きゅえすた)


1.プレイ(中盤②)

画像2

 ひとり人生ゲームでは、出来る限り意識しておくべきことがある。それは、感情を表に出さないで淡々とゲームを進めるということである。目の前で起こっている出来事に一喜一憂していると、想像以上にエネルギーを使ってしまう(筆者の主観)。エネルギーを消費して疲れてくる(飽きる、と言った方が良いのかもしれない)と、自分が今何をしているのかを見失ってしまいがちだ。淡々とルーレットを回し、お金の増減にも微動だにしない。それが、ひとり人生ゲームの理想である。物事を長続きさせる中で考えるべきポイントとして、ひとり人生ゲームは大事なことを教えてくれている気がする。出来るか出来ないかは、また別の話だが。

 さて、4人の人生はどう進んだのだろうか。医師の黄太郎から見ていこう。彼は株価の上昇で儲けたり、下落で損害を被ったりと、相も変わらずジグザグな人生を送っていた。残念ながらこのひとり人生ゲームでは、株券を強制購入することとなっている(前編のルール参照)。給料日のマスを通ったら、株券を買わなければならない。現実世界で乱高下と付き合っている株主は、さぞ大変であろう。本来なら全員でジャンケンすべきマス、「お宝チャレンジ」に止まった彼は、ちゃっかり「金の羅針盤」を手に入れた。

 さて、ここで人生ゲームの重要なイベントである「決算日」を迎える。ここまでで借金を抱えているプレイヤーは、ここでついに年貢の納め時となる。しかし、黄太郎は医院長になっていた。5万ドルの給料が大きかった。さらに、この決算日では子ども1人につき3万ドルをもらうことが出来るのだ。前編で既に、彼の家族には子どもがいることをお伝えした。ここまできちんと読んでいた読者の思いとは裏腹に、彼は借金とは無縁の生活を送り、決算日をパスしていったのである。

 メダリストの緑子。何と中盤で交通事故を起こしてしまった。しかし彼女は余裕の表情。そう、このひとり人生ゲームでは、スタート時点で各プレイヤーは自動車保険に強制加入させられているのだ(前編のルール参照)。これもひとり人生ゲームの恩恵というものであろうか。人生ゲームでは、たった一度、それも1千ドル(最小単位)の経費で、4万ドルもの出費を回避できる。現実世界でも自賠責保険に加入義務があるが、自動車保険はいざという時に自分を守ってくれるのだ。過去に物損事故を起こした筆者から、全国の皆様へ告ぐ(偉そうに言うな)。

 緑子はその後、天然水でそば打ちをして4万5千ドルを手にした。何も知らぬ観光客に高値で売りつけたに違いない。許されざる行為(?)だが、彼女は全く気にすることなく、一番早く決算日をパスしていった。駅そば食べたい。

 前途多難の青彦。ランクアップに失敗していた彼だが、2度目のランクアップマスにうまく止まり、ようやく社長へのランクアップを実現した。しかし彼もまた、株価の下落に苦しんだ。自分で株価下落のマスに止まるのはまだ良い。そば打ちで儲ければ良いではないか、と読者の大半は思ったはずだ。青彦もそのマスに止まっている。しかし、彼にはもうアンラッキーの流れは止められなかった。その隣のマスに止まってしまったのである。魚に釣竿を持っていかれて4万ドル払ったのである。

 何とか決算日を無借金でパスした青彦。しかし、またも不可抗力により彼が不幸を襲う。株価下落マスは、恐ろしいことに株券を持っているプレイヤー全員が損害を被るマスなのである。最後尾でのんびり進んでいる黄太郎が下落マスに止まった途端、青彦の財産はついにマイナス7千ドルへ転落してしまった。誰かの人生が、自分の人生を狂わせる。人間社会の暗部まで、このボードゲームは映し出すのだろうか。

 いちごこと赤実。彼女は既に社長に就任しており、比較的順調に進んでいた(順調に進んでいないのは1人だけだが)。彼女もまた株価下落マスに止まってしまう。この人たちは、一体何度下落させれば気が済むんだろうか。そして、彼女もまたそば打ちをするのである。彼女は二番煎じで生きていくつもりなのだろうか。緑子に次いで2番目に決算日を通過。普通が良い。

2.プレイ(終盤)

 長かった人生ゲームも、ここで大詰め。決算日以降のマスは動くお金が大きい。従って、一度の損害が一気にダメージを被るし、一度の大儲けで順位が逆転することもあるデンジャラス・ゾーンだ。メンデルスゾーンは作曲家だ。

 誰がゴールの「億万長者の土地」に一番乗りを果たしたのだろうか……。逆転は無かった。集団から抜け出した緑子が、そのまま逃げ切って10万ドルを手にした。しかし、終盤の彼女はスローペースであった。つちのこを発見して2万ドルもらうかと思えば、なんとここへ来てもう一度大学受験をすることに。4万ドルの出費となった。更には町工場の世界進出に7万ドルを投じた。これらの出費が痛かった。株売却と生命保険満期で21万ドルを手にしたが、総合財産は現金と「やる気ボタン」の価値を合わせて38万4千ドル。残念ながら2位であった。38万ドルでもかなりの財産であるが、果たして誰が真の大富豪となったのであろうか。

 赤実は緑子を追ってハイペースで進んでいた。キャンプで羊が乱入する災難もあったが、つちのこの発見で損失をカバー。やはり、彼女は人のすることを真似したがる。生命保険満期を迎えてそのままゴールイン。2着賞金5万ドルを手にした。平和に過ごした彼女の資産は、現金と株券合わせて18万3千ドルであった。株券はゴール手前のマスに止まると8万ドルにて売却できるが、ゴールすると1枚1万ドルの計算になってしまう。もうはまだなり、まだはもうなり。

 人生の大逆転を目指す青彦。しかし、彼にはもう正常に判断する力が無かった。財産が無い中、大学受験をして4万ドルの出費。辛うじて生命保険満期のお金でカバーしたが、彼の目は遠く空を見つめている。アンラッキーな中でも社長に就任できたが、ここから逃げ出したい気持ちの方が強かったかもしれない。

 火星移住、それはゴール1つ前のマス。順調に進んだプレイヤーがゴールできると思いルーレットを回した刹那、牙をむく。15万ドルもの大金が、一度にして失われるのである。火星に飛んだ彼は、一体どのような思いでゴールしたのだろうか。3着賞金の3万ドルでも、持っている株券でも到底賄いきれないこの出費。彼の総合資産は、マイナス9万3千ドルであった。返すことの出来ない約束手形が、彼の財産諸表に赤く、ただ赤く刻まれた。

 人生は早い者勝ちとも限らない。時には立ち止まって考えて、ゆっくり進んでいくのも良いのかもしれない。黄太郎はそれを示した。他のプレイヤーがゴールした後も、彼だけルーレットを回し続けた。終盤で唯一、出費を伴うマスに当たらなかったのが幸運だった。つちのこ発見、生命保険満期、さらには人工知能による資産運用で、17万ドルを手にした彼は、最後の最後で緑子を逆転。金の羅針盤(3万5千ドル)を手にしていたアドバンテージもあり、総合資産は42万1千ドルであった。不思議な、しかしどこか納得できる幕切れであった。

3.おわりに

画像1

 ひとり人生ゲーム。2人以上で行うことを想定した作りに抗うこの所業は、ものすごく暇な人しか成し遂げられないであろう。ズボラな筆者はドル紙幣の切り取りに何度も失敗したり、給料日を危うくスルーしそうになったりした。4人分の操作を1人で行っていたが、間違いなく疲労度は複数人でプレイした時に比べて大きい。複数人でプレイしたことが無いので、そこは筆者の行き届かない部分であるが、もし奇跡的に複数人でプレイした際は、今回の暴挙と比較してみたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?